太陽がくれた初恋~溺愛するから、覚悟して?~
第四章 天高く『愛』肥ゆる秋

招かれざる客/side麻依

空が青く澄み渡る10月――

ソレイユの敷地の周囲に植えられているモコモコのコキアが紅葉してきた。
夏の緑は清々しく、そして秋の紅葉はかわいらしい姿を見せてくれる。


「やっと涼しい風を感じられるようになってきたね」

ソレイユの玄関前でお客様のお見送りを終えたひよりんに声をかける。
通り抜ける風が心地よい。

「あっ麻依先輩、お見送り終わりました」
「お疲れ様、今日もスムーズに終わったね」
「はいっ」
「今日はお通夜もあるから…その準備の前にちょっと休憩しようか」
「そうですね」

フロントの奥の事務室でしばしコーヒータイムをとっていると、諒くんがやってきた。

「あ、支配人、お疲れ様です」

「お疲れ様、これ今日のお通夜のお客様のね」
と、デスクに追加事項が書かれた施行台帳のコピーを置いた。

いつもなら渡し終えたらすぐ戻るのだが、今日はまだ去ろうとしない。
というか、珍しくデスクの椅子にドカリと座った。

「諒くん、どうしたの?」

そう尋ねる私に、諒くんは少し固い表情で言う。

「あのさ…今日からのお客なんだけど…俺の昔の知り合いの親戚なんだ」

「そうなんだ、それは気が抜けないね」

あぁ、それで緊張してるのかな。

「でも諒くんなら大丈夫!自信持っていいよ!」

そうエールを送ったのだけど、諒くんは前髪をかき上げて、そうじゃないんだ…と呟いた。

…?
ひよりんと顔を見合せていると、今度は苦虫を噛み潰したような顔に変わった。

「諒さん、一体どうしたんですかぁ?そのお知り合いって苦手な方なんですかぁ?」

ひよりんが不思議そうに尋ねると、はぁ…とため息をついた諒くんに、私はじっと見つめられてしまった。

な、何だろ…

「麻依、何があっても、誰が何を言っても、俺が好きなのは…愛してるのは麻依だけだから。それだけはしっかり憶えといてね」

「え、な、なに?」

いきなり且つ想定外の発言に赤面してしまう。
だってここ、職場だし。

「きゃあ!私、ここにいちゃっていいんでしょうか!」って、ひよりんも赤面。


すると、諒くんがぼそぼそと覇気なく話す。

「あのさ…今日のお客…喪家さんの親戚が高校の頃まで住んでた自宅の向かいの人なんだけど、そこの娘さんがちょっとね…」

はぁ、とため息。2回目。

「あっ、私わかっちゃったかも!…その人、当時諒さんに好き好きビーム出しててぇ、今回久しぶりに会ったら相変わらずで、ベタベタ言い寄られてたんじゃないですかぁ?」

ひよりんが人差し指を立てて言う。

「何でわかんの!?」
諒くんが目を丸くする。

「うふふ、そういうのには鋭いんです、私」

「ひよりん、すごい…」

「ここからは私の憶測ですけどぉ…もちろん諒さんはその方とお付き合いもしてませんよね?それでその方って可愛い方じゃありません?弱々しく控えめに見せておいて、その実押しが強いっていう。それに、自分に自信があって、自分を可愛く見せる術を知ってたり…あと、そのタイプは大抵自分のことを名前で呼んでますね!」

手は人差し指を立てたまま。

「…すごいね陽依さん、全部ドンピシャ。でも俺は可愛いとか思ったことないけどな」

「ひよりん、よく外見まで可愛いってわかったね」

「だって、この諒さんに言い寄るんですよぉ?それなりに自信がないとできませんからね!ちなみに、私の一番苦手なタイプの女子です」

「はあぁぁ…」

「諒くん、ため息3回目だよ」
あまりにも担当がイヤそうで、そんな諒くんに苦笑する。

「ん…というわけで…嫌な予感しかしないんだけど…仕事だからな、最後まできっちりこなすよう努力する」

「うん、わかった。じゃあ、終わったら何かご褒美あげるね」

「マジ?何でもいい?じゃあそれ楽しみに頑張ろ!……あ!あと大事なこと忘れてた!あのさ、麻依が彼女だということは知られたくないから、そこはバレないようにしよう」

「ん、わかった」

じゃあ、とフロントから出た諒くんが、ドアから顔を覗かせ、ちょいちょいと指で私を呼んだ。


「どうしたの?」

フロントから出ると、まだ誰もいないロビーの観葉植物の陰で、諒くんにぎゅうっと抱きしめられた。

「職場でごめん…プチ充電させて」

諒くんの体にすっぽりと覆われるのが嬉しくて心地よい。

「諒くん…」
私も背中に手をまわしてキュッと抱きしめる。

諒くんが私の首もとに顔を埋めて大きく息を吸い込むと、くすぐったいんだけど…それよりドキドキしちゃう。

「…不安にさせるかもだけど…俺は麻依だけを愛してるから」

「ん…私も大好きだよ」

「ありがとう、 麻依」

最後にちゅ、と唇に軽いキスを残して諒くんは戻っていった。
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