太陽がくれた初恋~溺愛するから、覚悟して?~
それから、支配人が佐伯さんを軽く紹介すると、今度はソレイユのスタッフを紹介する番に。


「じゃあここからは麻依さんにお願いしようかな」

と、いきなり支配人に振られ、みんながこちらを向いた。

「えっ?みんなの紹介でしたら、支配人がされた方がみんな喜びますよ?」

なんて返すも、スタッフの間からの「俺は麻依ちゃんでもいいよー」「あたしも麻依っちに呼ばれたいなー」なんていう悪ノリのおかげで私がする事になった。

いや、本当に支配人が名前を呼ぶ方がみんな嬉しいと思ったんだけどなぁ。

でも私でいいなら喜んでやらせていただきます!

と、今いる場所から一歩前に出た。

「コホン。では僭越ではありますが、私の方から皆さんを紹介させていただきます」

最後に一礼して、わざと仰々しい態度を取ってみる。

「ィヨッ」「ガンバ」
いつもこんな感じで、お客様がいないと和気あいあいだけど、今日は初顔の佐伯さんがいるからか、みんなちょっとテンション高めみたい。

佐伯さんに体を向け言葉を掛けた。

「ソレイユのスタッフは普段こんな感じですが、こう見えて仕事はしっかりやりますのでご安心ください」

佐伯さんはまた口角を上げて「はい」と、綺麗な顔で私の目を見つめる。


…その瞳にちょっとだけドキリとしたけど、それを悟られない内に、今度はスタッフに体を向けパンと手を叩いた。

「では、部署ごとに纏まりましょう!」


私の合図でスタッフが部署毎に集まると、順番に紹介を始めた。


「では、こちらが調理部で──」

…ベテラン順に一人一人自己紹介していき、カナさんの番になると佐伯さんと対面した時の反応たるや凄いもので、詳しくお話したい所だけど割愛。

続いて、給仕サービス、事務、備品管理の紹介がサクサクと終わり、次は施行担当。

「施行担当は、現在中沢支配人を含めて3名で、主に担当しているのが上原 修(うえはら おさむ)さんと高見 翔琉(たかみ かける)くんの2名です」

私がそう言うと、上原さんが続いて話し出してくれた。

「上原 修です。ソレイユの施行担当では中沢支配人の次にベテランの43歳です。佐伯新支配人の仕事ぶりは第一支社のヤツからも聞いてて、一緒に仕事できるのを楽しみにしてました。新支配人の凄いところは参考…というか盗ませてもらうつもりなので、宜しくお願いします」

普段から穏やかなインテリ眼鏡イケメンの上原さんは、いつも通りの優しい笑顔で挨拶した。
ちなみに、調理部のカナさんの旦那さんでもある。


「こちらこそ、これからは上原さんが一番のベテランになりますし、頼りにしてますので宜しくお願いします」

とても好意的なやり取りでみんな笑顔で見ているが、福田くんから1社での様子を聞いている私は微妙なところ。
深く関わりを持たないらしい佐伯さんが、果たしてどこまで打ち解けてくれるのかしら…

と、ちょっと考えていたら。

「麻依さん、何でオレは〝さん〞じゃなくて〝くん〞なんスか?」

翔琉くんが文句垂れてきた。


「それなー」
「翔琉くんは翔琉くんだろー?オマエは〝翔琉さん〞てガラじゃねーし」

なんて、笑い声の中に愛のあるヤジが飛ぶ。


「ごめん、自分の歳を基準にしちゃった」
テヘ、と肩をすくめる。

「それ、麻依さんが俺より歳上だって新支配人にバラしてますよ?えっと俺は26ですけど、佐伯さんはおいくつなんですか?」

「5月で28歳になります」

「じゃあ今27なんスね。俺と1つしか変わらないんスね!…ってことは、麻依さんは佐伯さんの1こ上かー」

「はぁっ!?」

「お前が全部バラしてどうする」

上原さんがククッと笑いながらグーでポコっと高見くんの頭を叩く。


…笑いで雰囲気が明るくなるのはいいけどさ。

「…えぇと、歳の話はさておき高見くん、挨拶を」

「あっ、そーでした!ま、これでつかみはオッケーってことで。シシシ」

「あたしはつかみのネタかー!」

手の甲で高見くんを叩きながら突っ込むと、また笑いが起こった。


こう見えて高見くんは頭の回転が早くて空気が読める人だ。

でもいつもはここまでしないから、新支配人に対しての〝早く仲良くなろうぜ〞アピールなんだと思う。

…うん、まぁ…
仲良くなれるといいんだけどね…


「えーと、高見 翔琉です。施行担当の中で一番若手の26歳です。言いたいこと上原さんに全部言われちゃったんスけど、オレも新支配人からたくさん学びたいと思ってますし、若い者同士、早く仲良くなりたいです」

「えっ?翔琉、俺は?若くないの?」
上原さんが焦ったように問う。

「修さんは若くはないですけど仲良しですから」

「そうか…いや、仲良しだもんな、若くないけどな…」

「修さんは俺らの仲間だぜ、ガハハ」

50代の調理部の渡瀬(わたせ)さんがヤジると、ロビーはしばし笑いと雑談に包まれた。

そんな中。

「本当に…仲いいな」

佐伯さんが誰に言うでもなくポツリと呟く。

その声を拾った私は、その呟きに答えたくなり、口を開いた。

「はい、みんな信頼しあえる仲間です。仕事もキッチリやりますよ?…でも今日は佐伯さんにお会いして、みんなやたらテンション高いですけどね」

そう笑いかけると、佐伯さんがまた私を見つめ、今度は少し目を細めて「そっか」と呟いた。


口元だけではない初めて見た笑顔に、今度はハッキリと胸がドキリと鳴った。

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