太陽がくれた初恋~溺愛するから、覚悟して?~
「ああぁ…疲れた……」
「諒くん、お疲れ様でした」
お通夜振舞いも終わり、ヘロヘロでフロントに戻ってきた諒くんを笑顔で迎える。
「麻依ぃ…マジで疲れた…癒して…ちゅーして…」
倒れこみそうな体でフロント事務室に入りながら言う。
「…お前って、そういうキャラだったのな……案外かわいいヤツだったんだな…」
「うわぁ!福田さん、まだいたんですか!?」
奥の隅っこにいた福田くんを見て、仰け反って驚いてる。
「いちゃ悪いか」
「悪いですよ…麻依と2人っきりとか…」
「大丈夫ですよぉ、私もいましたからッ」
更衣室にいたひよりんが、ぴょこっ、とカーテンから顔を覗かせて諒くんに手でOKサイン。
「あれ?陽依さん、帰らなかったの?」
シャッ、とカーテンを閉めながら、私服のひよりんが出てきた。
「だって、麻依先輩と福田さんを2人っきりにさせられないじゃないですかぁ」
「うわぁ陽依さん、マジ神」
「佐伯が『マジ神』ってよぉ…俺の中の佐伯像がどんどん崩れてくぜ…違うヤツみたいだぞ…?」
「そうですね…俺、すげぇ変わったかも」
「うわぁ…『俺』とか言ってるしマジ別人じゃん…でも俺、そんなお前が嫌いじゃないぜ」
「ハハッ、ありがとうございます」
それからしばらくの間、みんなでお疲れの諒くんを労いながらフロントで談笑していると…
「…諒ちゃーん、どこぉ?」
ロビーの方から諒くんを探す声が聞こえてきた。
「げ……ユリナだ……」
一瞬で顔色が悪くなるって、どれだけ苦手なんだろう…
「諒さん、どうするんですかぁ?」
「…とりあえず出ないとフロントに迷惑がかかるからな…はぁ…」
そう言ってフロントの外へ出ていった。
そして…ロビーから見えない位置で、こっそり聞き耳を立てる私達3人。
「あっ、諒ちゃん!ねぇねぇこれからどうするの?」
「どうするも何も、僕は帰りますが」
『…アレの前では以前の王子様キャラなんだな』
『そうですね、素の諒さんではありませんね。心を許していない証拠ですッ』
2人をチラ見し、ヒソヒソと話す福田くんとひよりん。
「ユリナも諒ちゃん家に行きたいな…いいでしょ?ユリナもお泊まりさせて?…あのね…実は親戚の男の子がしつこくて困ってるの…」
私もそぉっと覗くと、ユリナさんは可愛らしい上目遣いをしながら諒くんに密着していた。
『チッ、なんだあの女』
『何様だと思ってるんですかねッ』
…ヒソヒソにイライラが追加されたみたい。
「ご家族も一緒にいるのだから大丈夫ですよ。こちらで休んでください」
「えー…ユリナ、男の子怖いもん…だから諒ちゃんちがいいの……あっ!一緒にお風呂入る?洗いっこしてもいーよ?ユリナ、諒ちゃんとなら一緒のベッドでも平気だし」
なんてちょっと恥ずかしそうに言うけど、内容はグイグイ系肉食女子そのもの。
『うわぁ…反吐が出るぜ』
『同感です福田さん。あれは自分に自信のある女にしか言えませんが、あの程度でどれだけ自信過剰なんですかね。麻依先輩の前なんだし、もっと身の程を弁えた方がいいですね』
『…よし、ここは俺の出番だな』
『助け船ですか?』
『あぁ。まぁ見てなって』
『福田さん!よろしくです!』
ひよりんが両手をグーにして言うと、おぅ!と福田くんが揚々とフロントから出ていった。
そして、未だしつこく諒くんに纏わりつくユリナさんを無視し、険しい顔で言う。
「諒、仕事終わったんだろ?早く行けよ」
「…あぁ、福田さん」
突然現れた福田くんに、諒くんは戸惑いを全く見せていない。
もしかしたら、福田くんに〝諒〞と呼ばれたことで何かを察したのかも。
「お前、今日は彼女と大事なデートなんだろ?ほら、早く行け。あいつを待たせんじゃねぇよ」
険しい顔のまま有無を言わせない物言いで詰め寄る。
…諒くんも福田くんの思惑に気付いたようで、その話に乗った。
「そうですね、もう時間ですね。では、僕はこれで失礼するので、ユリナはこちらでご両親と休んでください」
「えっ、彼女とデート?ユリナよりも大事なの?」
「諒、急げ。もう時間ねぇぞ」
「えぇ。…それではここで失礼します」
「えっ、ちょっと…」
と、ユリナさんが呆気に取られている隙に、福田くんと諒くんはロビーから『private』の扉へと去っていった。
私も控室に顔を出して喪家様に挨拶し、あとを夜間(宿直)の担当さんにお願いして仕事を終え、ホールを出た。