太陽がくれた初恋~溺愛するから、覚悟して?~

いざ決戦!/side麻依

――8時5分前。

デミタスと金平糖に後押ししてもらい、「よし!」と気合いを入れ直すと、エレベーターで最上階のレストランに向かう。



「あっ、羽倉ちゃん!待ってたよ」

レストランの入口で、ズボンのポケットに手を入れた横田さんが私を見つけて呼び止めた。


ライトブラウンの髪はセンターパートマッシュで、笑うとなくなる奥二重の目。鼻筋もスッと通っていて、世の中的にはイケメンの部類に入るらしい。
背も175㎝で低くはない。
そんな見た目の彼は30代後半には見えず、20代と言ってもわからないくらい。
容姿は悪くないので案外モテたりする。

「お疲れ様です、横田副支社長」
恭しく一礼する。

「やだなぁ、仕事じゃないんだからそんな堅苦しくするなよ」

「いえ、私は仕事と認識しておりますが」

「まぁいいや、とにかく食事しよう」

「…失礼します」

案内されたのは窓際のテーブル。
一面ガラス張りの窓の下には夜景が広がっている。
高層階からの夜景は地方都市でも綺麗に見えるのだから不思議だ。


私はこの食事を仕事の延長と捉えているため、手帳とボールペンをテーブルの手元に置いた。

「なんだよ、せっかく2人きりのディナーなんだから、落ち着いて食事しようよ」

一部では色男と言われているらしいが、ニヤニヤと締まりのない顔を向けられても気持ち悪いとしか言いようがない。

「すみません、どうも仕事と思えてしまって」
〝私は仕事をします〞というスタンスは崩さない。

「フッ、真面目だなぁ、羽倉ちゃんは。でもそんなとこも好きなんだけどね」

「そうですか」
社交辞令が必要だとしても、ありがとうございます、の言葉は出さない。
…言いたくない。


テーブルにアペリティフ、アミューズと運ばれてくるが、やはりというか何というか横田さんからはスタッフの話が全く出てこない。
その代わり、私のプライベートを聞き出そうとするいやらしいパワーが凄まじい。

もちろん何一つその質問には答えず、私は心の中で大きなため息をついた後、本題を切り出した。

「横田副支社長すみません、本来のお仕事の話をさせてもらってもよろしいですか?」

「あ?あぁ、そうだったっけ。まぁ…夜は長いしな。じゃあ話してよ」

「ではまず施行担当から…」

私は食事をいただきながらスタッフの働きぶりをスラスラと淀みなく話した。
傍らにおいた手帳を開き、中に挟んでおいたスタッフ名簿を見ながら、一人も見落とさないように。

それを横田さんは聞いているのかいないのか…適当な相づちを打ち、自分のスマホを見ながら食事を進めている。

正直、せっかくのお料理だが味わう余裕はなかった。
そもそも横田さんと一緒ではどこであろうと美味しくいただけないと思うが。


『食事は何を食べるかではなく、誰と食べるかで幸福感が違う』と誰かが言ってたな…
確かに、諒くんとなら一流のディナーが更に美味しくなるんだろうな…なんてぼんやり考える。


でも…諒くんの事を思い出したら胸がぎゅう…と掴まれる痛みを感じたので、再度気合いを入れ直した。
さぁもうひと踏ん張り!


…最後にフロントスタッフのひよりんと私の話をし、仕事の話は終えることができた。

ふぅ…まずは任務完了。
あとは、今後は誘われてもお断りさせていただきます、とハッキリ言わなければ。
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