プライム高校バチェラー部!
【最終話】最後の人
最後のローズセレモニーのため三人は会場にいた。
健は控え室で制服に着替えると、バンザイ先生がやってきた。
「バチェラー。最後のローズセレモニーになります。あと一時間ありますので、その間に最後にお呼びする方とその時の言葉を考えておいてください」
バンザイ先生はそう言うと、控え室を出ていった。健はテーブルの上のパネルを見た。
残ったのは、浦和美園と湊みらい。
最後にこの二人を選んだ選択は間違っていない。
浦和美園
一緒にいて心地が良くて、一生懸命なところが好きだ。爽やかな笑顔が可愛いと思う。付き合ったらお互いを尊重しながら、共に成長できる。バレーの試合を見て感動した。駅で美園と一緒にいて離れたくなかった。美園ともっと一緒にいたい。美園と手を繋いで歩きたい。他愛のないことを話して、毎日を笑って過ごしたい。
どちらが好きかと聞かれたら美園を選ぶのだが……。
湊みらい
あの頃、ずっと一緒だった。一緒に大きくなって、一度別れて再会した。このタイミングで再会できたことは奇跡だ。みらいと一緒にいると、家族と一緒にいる感覚に近い。だからこそ、ずっと一緒にいられるだろう。それでも、みらいとキスした時はドキドキした。恋人だけど、家族のような感覚。結婚するというのはこういう気持ちなのだろうか。最後にみらいが言っていたように『付き合ったら結婚する』というのは納得できる。
結婚相手を選ぶのがバチェラーの目的だとしたら、みらいを選ぶのだが……。
話すべき内容は決まった。あとは、この決定に納得してもらえるかどうか。
「それでは、バチェラー。お時間ですのでローズセレモニーに向かいましょう」
バンザイ先生は控え室のドアを開き、健を先導するように歩を進めていく。最後のローズセレモニーの会場は出会った場所でもあるレッドカーペットに美園とみらいが立っていた。
七人いた女性はついに二人だけ。目の前にある銀のトレーにはローズが一輪置かれている。
「それではバチェラー。最後の一人にローズをお渡しください」
健はローズに目をやり、美園とみらいを交互に見つめた。
三ヶ月後
市民体育館には『全国高校バレー選手権 東京都代表決定戦』と大きく書かれた看板が吊るされている。みらいは体育館に入り、観客席の中央あたりの席に腰を下ろした。
「みらいー」
コートにいる美園がみらいに気づき、大きく手を振った。
「みらいー、応援にきてくれてありがとー」
「美園ー。頑張って!」
ガッツポーズで美園は応えた。
「みらい、早いね」
ヒカリがみらいの隣の席に座る。
「だって良い席で見たいでしょ?」
「そうだね。あっ、美園はもうアップしてるんだ。ところで、他のみんなは?」
「ミキは向かいの席でチアの準備してる。ほら、あそこ」
ミキはチアリーダーの姿で、他の部員とミーティングをしているようだ。
「後はまだ来てない」
「はぁ? もうすぐ試合始まるよ?」
「お待たせ。まだ、試合始まってないよね?」
「あっ、伊香保遅いよ」
伊香保はヒカリの隣に腰掛ける。
「あたしは時間通りに来たのよ。でもね、苺が遅れて。あれ? 苺は?」
伊香保はあたりを見回す。
「あの子、トイレに行ってから席に行くって言ってたけど。もしかして、迷子になってる?」
「あー、ありえるよね」
三人が顔を見合わせ、呆れたという顔をしている。
「迷子のご案内です。赤城伊香保さま、お連れの小山苺さんが南入り口でお待ちです」
「もー。迷子は苺の方だから。あたしを迷子扱いしないでよ。ちょっと苺を迎えに行ってくる」
「ママよろしくねー」
ヒカリが手を振ると、伊香保は観客席を離れた。
「みんな、おまたせー」
日立は大きな黒いサングラスとマスク姿で現れた。
「日立、何そのサングラス。芸能人のつもり?」
ヒカリが冷めた口調でツッコミを入れる。
「えっ? 芸能人だけど?」
「あの、もしかして常盤日立さんですか? ファンなんです。握手してください」
男子高校生らしきファンが日立に気付き、声をかけてきた。
「ごめんなさい。今日はプライベートなんで」
日立が全力スマイルでやんわりと断った。
「ほらね」
「でも、日立が試合に間に合うとは思わなかった」
みらいが笑顔で言う。
「時間ギリギリだったから、お兄ちゃんに車で送ってもらったの」
「日立はひとりっ子じゃない」
ヒカリがすかさずツッコミを入れる。
「血の繋がってないパパとかよりはいいかも」
みらいがぼやいた。
「試合始まっちゃった?」
伊香保が苺の手を握り、席まで連れてきた。
「ふぇぇ。道に迷っちゃった。美園ちゃんの試合は?」
「いまから始まるところ」
みらいは美園を指さした。
「そーれ!」
観客席からサーブの掛け声が上がる。そして、向かいの席ではチアリーダーが応援し始めた。
「GO! GO! プライム高校! GO! GO! GO! FIGHT! WIN!!!」
「やっぱりミキはかっこいいね」
ヒカリがミキに手を振るとミキはウインクで応えた。
「チアは全国大会出場決定したね」
リップを塗りなおしながら日立が言った。
「お母さんは良かったよ。ミキが全国に行ってくれて。娘たちの活躍が一番嬉しい」
伊香保が言った。その間、試合は美園がサービスエースを三本連続で決めた。
「みんな頑張ってるよね。ヒカリは店長になったんでしょ?」
みらいはヒカリに尋ねた。
「名前だけね。高校生店長って、キャッチーでしょ? 先輩方には毎日お世話になりっぱなし。毎日勉強中。伊香保はテレビ出てるみたいじゃん」
ヒカリが言った。
「地方局だけど、群馬の温泉地を紹介する仕事をもらって、毎週温泉入ってる」
「伊香保は群馬のアイドルだもんね」
日立が言った。
「日立が言うと、なんか癇に障るのよね。どうしてかしら」
「汐汲坂は軌道に乗ってきてる?」
みらいが尋ねる。
「今度握手会やるから、みんなCD買って来てね。握手会のチケットが同梱されてるから」
「いくー!」
苺だけが元気に答えた。
「苺は読モどう?」
日立が尋ねた。
「楽しいよ」
「読モの仕事は日立が紹介したんでしょ? あんた結構いいとこあるよね」
伊香保が日立をひじでつつく。
「出版社の知り合いが、私と撮ったインスタ見たみたいで、苺を紹介しろってうるさくてさ。紹介したら読モに選ばれちゃったし。まぁ、低身長向けの雑誌からのオファーだから、紹介したところで私と競合しないから」
「まったく、強がっちゃって。苺は可愛いから、読モに選ばれたのよねー」
伊香保が「ねー」と苺に言った。
「みらいちゃんは最近どうしてるの?」
苺は尋ねた。
「わたしは、毎日を楽しく過ごしてるよ。お父さんの会社を手伝っているけど、特別これってことはないかな。ところで、たけちゃんはいまごろ何してるんだろうね? 美園の試合を見にくるって約束していたらしいけど……」
全員が会場で健の姿を探そうとしていた。しかし、健の姿はみつけた人はいなかった。
パチーン、という大きな音ともに美園のバックアタックが決まった。気がつけばプライム高校は二セットを先取し、三セット目もあと一点で勝利というところまできていた。そして、美園がサーブを打つ。
「今日は美園のサーブが決まってるから、これで勝ちかしら」
「そーれ!」
「美園!」
美園のサーブは相手チームの間をすり抜け、ラインギリギリで決まった。
「ゲームセット!」
チームメイトが勝利に喜ぶ輪の中、美園は声が聞こえた体育館のすみを見つめていた。
「またここに来るとは思わなかった」
みらいは最後に二人で撮った写真を見ながらつぶやいた。
「なんか緊張してきた」
美園が手の汗を拭ってお守りを握る。
「楽しかったよね」
苺は自作のアルバムを開いて呟く。
「楽しかったけど、必死だった」
伊香保が空を見上げて言った。
「悔しかったけど、今はこれでいいって思ってる」
ミキはスマホでチアリーダー部の写真を見つめて言った。
「ちょー刺激的だった」
ヒカリは耳につけたピアスを触りながら言った。
「みんなとこうして友達になれるとは思わなかった」
日立が自撮り棒を使って、みんなと一緒に写真を撮った。
「最後の日、あんな終わり方をするとは思わなかった」
美園の言葉にみらいは大きくうなずいた。
「わたし、たけちゃんが言ったこと全部覚えてる」
みらいは健の癖である制服を直す姿をした。
「来月から、アメリカに行くことになりました。だから、二人ともお付き合いをすることはできません。本当にごめんなさい」
みらいは言葉を続ける。
「たけちゃんのお父さんの会社の技術が認められてシリコンバレーの大企業からお呼びがかかったんだって。でも、それを開発したのはたけちゃんだったから、本人が来てくれってことになったみたい。たけちゃんは一度は断ったけど、お父さんがどうしてもって頼んだみたい。たけちゃんは断りきれなくて、期間限定でアメリカに行くことになった」
「最後の二人まできて、どっちも選ばないなんて、ありえないよね」
ヒカリがぼやく。
「でも、これがバチェラーだと思わない?」
美園が天を仰いだ。
「あはは。バチェロレッテでは二人とも選ばなかったし」
ミキが笑って言った。
七人の視線の先にリムジンが止まった。ドアが開き、健が出てくる。
「あっ、噂してたらご本人登場」
伊香保はにやけながら言った。
「めっちゃニヤニヤしてるじゃん」
ミキが言う。
「そりゃ、私に会いたかっただろうし」
日立が言った。
「あー、落とし穴とか掘っておけば良かった」
ヒカリがいたずら顔で言う。
「それでは、みなさまあちらへ」
バンザイ先生がやってきて、女性達にいつもの場所へ移動を促した。
「それでは、バチェラー。ローズセレモニーをはじめましょう」
「もう、みんなのタケルでいいんじゃない?」
ミキが言う。
「ダメよ。私がもらうんだから」
伊香保は譲らない様子だ。
「えっ、でもどうしてみんないるの?」
美園が質問したが、誰も答える様子はない。
「たけるん、ローズちょうだい」
ヒカリは右手を差し出す。
「ヒカリみたいなギャルは好きじゃないってこと、まだわからないの? 私みたいなアイドルの方が好きだよね?」
日立が胸を寄せて言う。
「あざとすぎ。ワタシがタケルの活躍をそばで応援してあげるから。ゴー、ファイト、ウィン」
ミキは右手をあげて言った。
「ミキはそこでずっと応援してて。お母さんも会いたがってるから、今から実家に来なよ。疲れてるだろうから、一緒に温泉入ってのんびりしよう」
伊香保がタケルの腕を取る。
「群馬の山奥は遠いから行くだけで疲れちゃうよね。栃木の方がアクセス良いよ。パパもたけるくんと一緒にプログラミングについて語りたいって言ってた」
苺が上目遣いで健をみつめる。
「たける、約束通り試合を見にきてくれてありがとう。応援してくれたおかげで試合に勝つことができた。全国大会も見にきてくれるんだよね?」
美園が手を取りじっと見つめる。
「たけちゃん。ほら、わたしたち結婚式あげたでしょう?」
みらいは結婚式場で撮った写真を健に見せた。
「バチェラー、ローズをお渡しする方のお名前をお呼びください」
坂西先生の言葉で健が真剣な表情に一変する。
「本日は最後の一人の名前をお呼びするためにここに来ました」
健が一輪のローズを手にし、たった一人をみつめた。
そして、最後に呼んだ名前は……。
(完)
健は控え室で制服に着替えると、バンザイ先生がやってきた。
「バチェラー。最後のローズセレモニーになります。あと一時間ありますので、その間に最後にお呼びする方とその時の言葉を考えておいてください」
バンザイ先生はそう言うと、控え室を出ていった。健はテーブルの上のパネルを見た。
残ったのは、浦和美園と湊みらい。
最後にこの二人を選んだ選択は間違っていない。
浦和美園
一緒にいて心地が良くて、一生懸命なところが好きだ。爽やかな笑顔が可愛いと思う。付き合ったらお互いを尊重しながら、共に成長できる。バレーの試合を見て感動した。駅で美園と一緒にいて離れたくなかった。美園ともっと一緒にいたい。美園と手を繋いで歩きたい。他愛のないことを話して、毎日を笑って過ごしたい。
どちらが好きかと聞かれたら美園を選ぶのだが……。
湊みらい
あの頃、ずっと一緒だった。一緒に大きくなって、一度別れて再会した。このタイミングで再会できたことは奇跡だ。みらいと一緒にいると、家族と一緒にいる感覚に近い。だからこそ、ずっと一緒にいられるだろう。それでも、みらいとキスした時はドキドキした。恋人だけど、家族のような感覚。結婚するというのはこういう気持ちなのだろうか。最後にみらいが言っていたように『付き合ったら結婚する』というのは納得できる。
結婚相手を選ぶのがバチェラーの目的だとしたら、みらいを選ぶのだが……。
話すべき内容は決まった。あとは、この決定に納得してもらえるかどうか。
「それでは、バチェラー。お時間ですのでローズセレモニーに向かいましょう」
バンザイ先生は控え室のドアを開き、健を先導するように歩を進めていく。最後のローズセレモニーの会場は出会った場所でもあるレッドカーペットに美園とみらいが立っていた。
七人いた女性はついに二人だけ。目の前にある銀のトレーにはローズが一輪置かれている。
「それではバチェラー。最後の一人にローズをお渡しください」
健はローズに目をやり、美園とみらいを交互に見つめた。
三ヶ月後
市民体育館には『全国高校バレー選手権 東京都代表決定戦』と大きく書かれた看板が吊るされている。みらいは体育館に入り、観客席の中央あたりの席に腰を下ろした。
「みらいー」
コートにいる美園がみらいに気づき、大きく手を振った。
「みらいー、応援にきてくれてありがとー」
「美園ー。頑張って!」
ガッツポーズで美園は応えた。
「みらい、早いね」
ヒカリがみらいの隣の席に座る。
「だって良い席で見たいでしょ?」
「そうだね。あっ、美園はもうアップしてるんだ。ところで、他のみんなは?」
「ミキは向かいの席でチアの準備してる。ほら、あそこ」
ミキはチアリーダーの姿で、他の部員とミーティングをしているようだ。
「後はまだ来てない」
「はぁ? もうすぐ試合始まるよ?」
「お待たせ。まだ、試合始まってないよね?」
「あっ、伊香保遅いよ」
伊香保はヒカリの隣に腰掛ける。
「あたしは時間通りに来たのよ。でもね、苺が遅れて。あれ? 苺は?」
伊香保はあたりを見回す。
「あの子、トイレに行ってから席に行くって言ってたけど。もしかして、迷子になってる?」
「あー、ありえるよね」
三人が顔を見合わせ、呆れたという顔をしている。
「迷子のご案内です。赤城伊香保さま、お連れの小山苺さんが南入り口でお待ちです」
「もー。迷子は苺の方だから。あたしを迷子扱いしないでよ。ちょっと苺を迎えに行ってくる」
「ママよろしくねー」
ヒカリが手を振ると、伊香保は観客席を離れた。
「みんな、おまたせー」
日立は大きな黒いサングラスとマスク姿で現れた。
「日立、何そのサングラス。芸能人のつもり?」
ヒカリが冷めた口調でツッコミを入れる。
「えっ? 芸能人だけど?」
「あの、もしかして常盤日立さんですか? ファンなんです。握手してください」
男子高校生らしきファンが日立に気付き、声をかけてきた。
「ごめんなさい。今日はプライベートなんで」
日立が全力スマイルでやんわりと断った。
「ほらね」
「でも、日立が試合に間に合うとは思わなかった」
みらいが笑顔で言う。
「時間ギリギリだったから、お兄ちゃんに車で送ってもらったの」
「日立はひとりっ子じゃない」
ヒカリがすかさずツッコミを入れる。
「血の繋がってないパパとかよりはいいかも」
みらいがぼやいた。
「試合始まっちゃった?」
伊香保が苺の手を握り、席まで連れてきた。
「ふぇぇ。道に迷っちゃった。美園ちゃんの試合は?」
「いまから始まるところ」
みらいは美園を指さした。
「そーれ!」
観客席からサーブの掛け声が上がる。そして、向かいの席ではチアリーダーが応援し始めた。
「GO! GO! プライム高校! GO! GO! GO! FIGHT! WIN!!!」
「やっぱりミキはかっこいいね」
ヒカリがミキに手を振るとミキはウインクで応えた。
「チアは全国大会出場決定したね」
リップを塗りなおしながら日立が言った。
「お母さんは良かったよ。ミキが全国に行ってくれて。娘たちの活躍が一番嬉しい」
伊香保が言った。その間、試合は美園がサービスエースを三本連続で決めた。
「みんな頑張ってるよね。ヒカリは店長になったんでしょ?」
みらいはヒカリに尋ねた。
「名前だけね。高校生店長って、キャッチーでしょ? 先輩方には毎日お世話になりっぱなし。毎日勉強中。伊香保はテレビ出てるみたいじゃん」
ヒカリが言った。
「地方局だけど、群馬の温泉地を紹介する仕事をもらって、毎週温泉入ってる」
「伊香保は群馬のアイドルだもんね」
日立が言った。
「日立が言うと、なんか癇に障るのよね。どうしてかしら」
「汐汲坂は軌道に乗ってきてる?」
みらいが尋ねる。
「今度握手会やるから、みんなCD買って来てね。握手会のチケットが同梱されてるから」
「いくー!」
苺だけが元気に答えた。
「苺は読モどう?」
日立が尋ねた。
「楽しいよ」
「読モの仕事は日立が紹介したんでしょ? あんた結構いいとこあるよね」
伊香保が日立をひじでつつく。
「出版社の知り合いが、私と撮ったインスタ見たみたいで、苺を紹介しろってうるさくてさ。紹介したら読モに選ばれちゃったし。まぁ、低身長向けの雑誌からのオファーだから、紹介したところで私と競合しないから」
「まったく、強がっちゃって。苺は可愛いから、読モに選ばれたのよねー」
伊香保が「ねー」と苺に言った。
「みらいちゃんは最近どうしてるの?」
苺は尋ねた。
「わたしは、毎日を楽しく過ごしてるよ。お父さんの会社を手伝っているけど、特別これってことはないかな。ところで、たけちゃんはいまごろ何してるんだろうね? 美園の試合を見にくるって約束していたらしいけど……」
全員が会場で健の姿を探そうとしていた。しかし、健の姿はみつけた人はいなかった。
パチーン、という大きな音ともに美園のバックアタックが決まった。気がつけばプライム高校は二セットを先取し、三セット目もあと一点で勝利というところまできていた。そして、美園がサーブを打つ。
「今日は美園のサーブが決まってるから、これで勝ちかしら」
「そーれ!」
「美園!」
美園のサーブは相手チームの間をすり抜け、ラインギリギリで決まった。
「ゲームセット!」
チームメイトが勝利に喜ぶ輪の中、美園は声が聞こえた体育館のすみを見つめていた。
「またここに来るとは思わなかった」
みらいは最後に二人で撮った写真を見ながらつぶやいた。
「なんか緊張してきた」
美園が手の汗を拭ってお守りを握る。
「楽しかったよね」
苺は自作のアルバムを開いて呟く。
「楽しかったけど、必死だった」
伊香保が空を見上げて言った。
「悔しかったけど、今はこれでいいって思ってる」
ミキはスマホでチアリーダー部の写真を見つめて言った。
「ちょー刺激的だった」
ヒカリは耳につけたピアスを触りながら言った。
「みんなとこうして友達になれるとは思わなかった」
日立が自撮り棒を使って、みんなと一緒に写真を撮った。
「最後の日、あんな終わり方をするとは思わなかった」
美園の言葉にみらいは大きくうなずいた。
「わたし、たけちゃんが言ったこと全部覚えてる」
みらいは健の癖である制服を直す姿をした。
「来月から、アメリカに行くことになりました。だから、二人ともお付き合いをすることはできません。本当にごめんなさい」
みらいは言葉を続ける。
「たけちゃんのお父さんの会社の技術が認められてシリコンバレーの大企業からお呼びがかかったんだって。でも、それを開発したのはたけちゃんだったから、本人が来てくれってことになったみたい。たけちゃんは一度は断ったけど、お父さんがどうしてもって頼んだみたい。たけちゃんは断りきれなくて、期間限定でアメリカに行くことになった」
「最後の二人まできて、どっちも選ばないなんて、ありえないよね」
ヒカリがぼやく。
「でも、これがバチェラーだと思わない?」
美園が天を仰いだ。
「あはは。バチェロレッテでは二人とも選ばなかったし」
ミキが笑って言った。
七人の視線の先にリムジンが止まった。ドアが開き、健が出てくる。
「あっ、噂してたらご本人登場」
伊香保はにやけながら言った。
「めっちゃニヤニヤしてるじゃん」
ミキが言う。
「そりゃ、私に会いたかっただろうし」
日立が言った。
「あー、落とし穴とか掘っておけば良かった」
ヒカリがいたずら顔で言う。
「それでは、みなさまあちらへ」
バンザイ先生がやってきて、女性達にいつもの場所へ移動を促した。
「それでは、バチェラー。ローズセレモニーをはじめましょう」
「もう、みんなのタケルでいいんじゃない?」
ミキが言う。
「ダメよ。私がもらうんだから」
伊香保は譲らない様子だ。
「えっ、でもどうしてみんないるの?」
美園が質問したが、誰も答える様子はない。
「たけるん、ローズちょうだい」
ヒカリは右手を差し出す。
「ヒカリみたいなギャルは好きじゃないってこと、まだわからないの? 私みたいなアイドルの方が好きだよね?」
日立が胸を寄せて言う。
「あざとすぎ。ワタシがタケルの活躍をそばで応援してあげるから。ゴー、ファイト、ウィン」
ミキは右手をあげて言った。
「ミキはそこでずっと応援してて。お母さんも会いたがってるから、今から実家に来なよ。疲れてるだろうから、一緒に温泉入ってのんびりしよう」
伊香保がタケルの腕を取る。
「群馬の山奥は遠いから行くだけで疲れちゃうよね。栃木の方がアクセス良いよ。パパもたけるくんと一緒にプログラミングについて語りたいって言ってた」
苺が上目遣いで健をみつめる。
「たける、約束通り試合を見にきてくれてありがとう。応援してくれたおかげで試合に勝つことができた。全国大会も見にきてくれるんだよね?」
美園が手を取りじっと見つめる。
「たけちゃん。ほら、わたしたち結婚式あげたでしょう?」
みらいは結婚式場で撮った写真を健に見せた。
「バチェラー、ローズをお渡しする方のお名前をお呼びください」
坂西先生の言葉で健が真剣な表情に一変する。
「本日は最後の一人の名前をお呼びするためにここに来ました」
健が一輪のローズを手にし、たった一人をみつめた。
そして、最後に呼んだ名前は……。
(完)