本能のまま、冷徹ドクターは新妻を愛し尽くす
(真琴は不満に思っているということか? それとも現状報告として幼馴染に話しただけで、一緒に過ごす時間が少なくても気にしていないのだろうか?)

解答を求めて問いかけたかったが、一礼した香奈に背を向けられた。

「お呼び止めしてすみませんでした」

自動ドアの向こうへパタパタと駆けていった彼女も、これから三階の手術部へ向かおうとしている修平も忙しい。

二十分後に次の手術の執刀が控えているため、真琴の顔を思い浮かべつつ無機質な連絡通路に歩を進めた。



三階の西側にある医局に戻ったのは十八時を過ぎてからだ。

医師たちのデスクが四列になって並び、一角には会議スペースもある。

実習に来た医学生用のテーブルも用意されているので、広いはずのフロアが狭く感じる。

片づけが苦手な医師のデスクは書類や医学誌が山になっているため雑多な印象がした。

「お疲れ様」

自席へと向かう修平に他科の医師から声がかけられたが、そちらを見ず、聞こえるかわからない声量で同じ挨拶を返して足早に進む。
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