本能のまま、冷徹ドクターは新妻を愛し尽くす
(華やかな盛りつけ。花福の懐石料理でも参考になりそう。紫いもをソースにする発想が面白い)

花福には洋食メニューも少しあるが、和食中心なのでフランス料理には馴染みが薄く興味がそそられた。

柔らかできれいな赤みを帯びた牛肉にナイフを入れ、ゆっくりと口に運ぶ。

(あ、美味しい)

紫いものソースはほのかにバターと赤ワインの香りがして牛肉によく合い、後味の甘みが気持ちいい。

(この味を覚えて、家で再現してみよう)

修平は魚介が好きだが、肉料理が嫌いなわけではない。

真琴がチキン南蛮を夕食に作った時も完食してくれたので、週に一度は主菜を肉料理にしている。

美味しいと喜んだ気持ちをとも有したくて前を見たら、興味の薄そうな目をした修平が黙々と料理を口に運んでいた。

味わっているような表情でないのは明らかだ。

「私は好きですけど、修平さんは苦手ですか?」

スイートルームにいるのはふたりだけで、給仕のスタッフは退室している。

それでも聞かれては申し訳ないと思い、声を潜めて問いかけた。

すると修平が我に返ったような顔をして、「ん?」と疑問の声を出す。

「ああ、料理のことか。うまいよ、普通に」
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