本能のまま、冷徹ドクターは新妻を愛し尽くす
夫のためにできること
夏の暑さが和らいで夜間はエアコンを止めても眠れるようになった。

結婚して二か月ほどが経ち、真琴は今の暮らしにすっかり馴染んでいた。

早朝三時半に起きて身支度をし、なるべく物音を立てないよう気をつけてキッチンに立つ。

修平のための弁当は昨夜のうちに下ごしらえをすませているので二十分でできあがった。

(うん、美味しそう。彩りのスナップエンドウの緑がきれい)

メインはカジキマグロの竜田揚げで、筑前煮や卵焼きなど五種類の総菜といなり寿司を詰めた。

朝食は手軽なものがいいそうなので、焼きタラコのお握りと味噌汁、キュウリの浅漬けを用意した。

できあがった弁当と朝食を前に、真琴はニコリとする。

これらを食べる時の修平はきっと無表情のままだろうけど、心は喜んでいるに違いない。

初めて体を重ねて以降、医局で昼食をすませたら必ず感想をメールで送ってくれるようになった。

【アナゴの天ぷらは初めて食べた。うまかった。いつもありがとう】

短く淡白な文章でも修平の気遣いが伝ってきて、真琴は何度もメールを読み返すほど嬉しく思っていた。

真琴が求めているのはそういう些細なやり取りで、小さな夫婦の絆のようなものを感じていた。

それは弁当の感想メールだけでなく――。

四時十五分になって真琴が自宅を出ようとすると、修平の寝室のドアが開きスウェット姿の彼が玄関に現れた。

睡眠時間を心配し寝ていてほしいとお願いしても見送ろうとする。
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