本能のまま、冷徹ドクターは新妻を愛し尽くす
その翌週は久しぶりにふたりの休日が重なった。
特に出かける予定を組まず、自宅でゆっくり過ごすつもりでいる。
昨夜の修平は手術後の患者の容体が安定しなかったため病院で過ごし、帰宅できたのは明け方だった。
そのため昼近くになってもまだ起きてこない。
真琴はなるべく物音を立てないように気をつけて掃除や洗濯をすませ、それからキッチンに立った。
「逃げていても仕方ない。よし、やろう」
小声で気合いを入れてエプロンの紐をきつく締めると、研いだばかりの肉切り包丁を取り出した。
まな板の上にのっているのは脱羽済みの丸々一羽の鶏で、花福の取引先の精肉業者から『美味しい地鶏をぜひ試してみて』と言われていただいたものだ。
花福では胸肉やもも肉、手羽などに切り分けられた状態のものを仕入れており、捌くのに時間のかかる丸鶏は使わない。
それで真琴の父に、『持って帰って修平さんにうまいもの作ってやれ』と押しつけられた。
包丁を握った真琴の手は微かに震えており、恐る恐る丸鶏の首元に刃を下ろしたが切ることができずに手を離してしまった。
半歩後ずさり、浅く速い呼吸を整えようとする。
(怖い......)