本能のまま、冷徹ドクターは新妻を愛し尽くす
部位ごとに切り分けられた状態の鶏肉なら美味しそうだと思って調理に入れるのに、丸鶏には恐怖を覚える。

命をいただくという行為は同じでも、どうしても残酷な気がしてしまうのだ。

(料理人が食材に怯えてどうするのよ)

自分を叱咤して再び包丁を構えるも、やはり手が震える。

「鶏肉さん、ごめんなさい。私には無理です!」

思わず大きな声をあげてしまったら、修平があくびをしながらリビングに入ってきた。

寝ぼけまなこや寝ぐせを見せてくれる彼に、今ばかりはときめいていられない。

「なにが無理なんだ?」

隣に来て問いかけられ、真琴は眉尻を下げてまな板の上を指さした。

「起こしてすみません。これなんです」

トサカから爪まで、丸々一羽の鶏を捌くのが怖いと打ち明け、悔しさに唇を噛んだ。

「貴重な命を無駄にできないのに、どうしても切れないんです。私は料理人、失格です」

すると修平が水道で軽く手を洗い、「貸して」と真琴の手から包丁を取り上げた。

「修平さんが捌いてくれるんですか? もしかして、料理が得意だったりします?」

「いや、料理をした経験はほぼない」
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