本能のまま、冷徹ドクターは新妻を愛し尽くす
手術室での修平は人体にメスを入れており、それは神経がすり減るような緻密で繊細な作業に違いない。

食材を捌くことなど、彼にとってはたやすいようだ。

真琴は尊敬の目を向け、湧き上がる興奮をぶつける。

「もしお医者様を辞めても料理人としてやっていけますね。すでにプロ以上の包丁捌きですから」

あくまでも純粋な褒め言葉のつもりだったのだが、無言になった彼を見てハッとした。

「ごめんなさい。修平さんは高い志を持って外科医を務めているのに......」

医師になるまでの道のりが長く険しいのは、医療者ではない真琴でも知っている。

優秀でかつ患者を救いたいという強い意志がなければ、医師にはなれないだろう。

特に外科医は精神的にも肉体的にもハードな仕事なので、生半可な覚悟では続けられないはずである。

料理人としてやっていけるなどと失礼なことを言ってしまったと反省したが、修平は気分を害してはいないようだ。

ウォーターサーバーから冷水を汲むとダイニングの椅子に腰かけて喉を潤し、真琴が思ってもいなかった打ち明け話をする。

「志はない。ひとりで生きていくのに適当な職業だと思っただけだ」

「えっ......?」
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