本能のまま、冷徹ドクターは新妻を愛し尽くす
相変わらず冷めた口調だが、わずかに細められた目を見れば人生を語ることが嫌ではないようで真琴はホッとした。

捌いてもらった鶏肉で親子丼の調理に取りかかると、修平が静かな声で話しだす。

「交通事故で両親を失った時、俺は三歳だった――」

両親に関しては記憶にないため悲しみは薄く、可哀想だと言われてもどこか他人事のように感じていたそうだ。

親戚の家を数年おきに渡り歩くような子供時代を過ごし、転校が多かったため親しい友人はいないという。

親戚たちに歓迎されていないのはわかっていたので存在感を消そうとなるべく静かに過ごし、与えられた課題や手伝いを黙々とこなすだけの日々を送って、楽しかった思い出はひとつもない。

しかし、まったくつらいと思わなかったそうだ。

「たぶん俺は心が発達不全なのだろう」

(心の発達不全? 私からしたらすごくつらかっただろうと思うことが、修平さんはそうじゃないから?)

中学時代は級友たちが厳しい受験勉強に悲鳴をあげても修平は少しも苦に思わず、むしろ暇潰しになるため教科書や参考書を読み漁り、どんな難関高校でも合格できると教師に太鼓判を押された。
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