本能のまま、冷徹ドクターは新妻を愛し尽くす
けれども選んだのは最難関の高校ではなく、成績優秀者の特待制度と寮のある偏差値が中程度の私立高校だった。

親戚の家を出て生活できれば、どこでもよかったのだ。

大学選びも同じ考え方で、授業料免除と生活費を補助してくれる医学部があると聞き受験した。

医師という職業に憧れや人助けがしたいという志はなく、ひとりで生きていくのに都合がよかっただけなのだそう。

感情のこもらない声で修平が自己評価する。

「そういう面では、俺は医師に不適格な人間だな」

鍋には玉ねぎと鶏肉がクツクツと煮えている。

真琴は卵を溶いていた手を止め、慌ててフォローする。

「そんなことないです。動機はなんであれ修平さんが多くの命を救ってきたのは事実なんですから。常に冷静沈着で感情的にならない人の方が外科医に向いていそうな気もします。私みたいに慌てたり焦ったりしていたら手元が狂いそうですもの。修平さんが外科医にならなかったら、人生がそこで終わっていた患者さんもいるんじゃないでしょうか。私は修平さんを尊敬しています」

「ありがとう......」

修平の目が柔らかく細められたので、真琴はホッとして言葉を足す。
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