本能のまま、冷徹ドクターは新妻を愛し尽くす
「ありがとう。おやすみ」

リビングへと進む修平の背を見ながら、真琴は自室のドアノブを引いた。

真っ暗な部屋に入ろうとしたら、「真琴」と呼び止められる。

振り向いた修平はほんの少し眉根を寄せ、寂しそうに見えた。

「明日は二十一時までに帰れるように努力する」

「なにか用事がありました?」

「ああ。真琴が寝るまでの一時間を俺にくれ。今日は冗談だが、明日は本気だから」

ニッと口の端を上げた修平はそれだけ言うと、さっさとリビングに入りドアを閉めてしまう。

置き去りにされた真琴は、おでんよりも顔を熱くして廊下にたたずんだままだ。

(今言わないでほしかった。これじゃ寝られないよ。明日の夜までずっとドキドキして、私の心臓、大丈夫かな)

「心臓が壊れたら、治療してくださいね」

リビングのドアに文句を言ってフフッとひとり笑いをする。

想い合う普通の夫婦になれる日まで、あとどれくらいだろうか。

結婚して五か月ほどが経ち、最近はグッと心の距離が近づいた気がして嬉しく思っていた。



時刻は十一時三十二分。

フードテナー六段を積んだ台車を押した真琴は、徳明会病院の自動ドアを速足で潜った。
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