本能のまま、冷徹ドクターは新妻を愛し尽くす
(二分遅れちゃった。お客さんたちに申し訳ない)

総合案内付近に、花福の弁当を買いに来た医療者たちが二十人ほど待っていた。

遅れたことを謝罪して、急いで長テーブルを広げて商いを始める。

「秋の彩り弁当がお勧めです。栗おこわが美味しいですよ」

「それちょうだい。サンドイッチも」

「こっちは生姜焼き弁当ね」

「毎度ありがとうございます」

慌ただしく客対応をしながら、心の中で兄に文句を言う。

(もう出る時間だって言ってるのに、俺が病院に行くってお兄ちゃんがしつこいから、いつもにもまして忙しい)

筋金入りの怠け者の兄が心を入れ替えたわけではない。

真琴の代わりに訪問販売に訪れた日に、循環器外科病棟に新しく入った美人看護師に一目惚れしたせいだ。

それ以来、彼女になんとか近づきたくて今後は自分が徳明会病院の訪問販売を担当すると言い張っているが、客に迷惑をかけそうだからという理由で毎回父に却下されている。

今日の花福を出る前も兄が勝手に徳明会病院用の弁当を積んだ車に乗り込んで、諦めてもらうのに時間を要した。

しかし大変だったはずなのに、笑いが込み上げた真琴はこらえきれずに吹き出す。
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