本能のまま、冷徹ドクターは新妻を愛し尽くす
波形ではなく直線ということは、心臓は動いていない――つまり〝脈なし〟ということらしい。

『あの男、すかした顔して医者ジョークかましやがって。取り持つ気ゼロじゃねーか!』

兄は憤っていたが、真琴は驚いて大笑いした。

(まさか修平さんが、うちの面倒なお兄ちゃんをそんな風に構ってあげていたなんて)

他人に興味がないと言っていた修平の心の変化も嬉しく思ったのだ。

(修平さんは今頃、医局でお弁当を食べているのかな。それとも忙しく仕事中?)

出勤前に見送ってもらったのに思い出したら会いたくなり、それが叶わないことが少し寂しい。

一階から上へと順に階を移して販売し、四十五分後に最上階に着いた。

エレベーターホールの片隅で商売を始めると十人ほどが一気に買いに来て、その後は客足が途絶えた。

店じまいをしようとしたら、循環器外科病棟から財布を手に若い看護師がパタパタと走ってきた。

「まだいてくれたんですね。よかった!」

長い黒髪をひとつに丸めてバレッタで留めている彼女は、清楚な美人顔をしている。

(お兄ちゃんの意中の......野々原さんだ)
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