本能のまま、冷徹ドクターは新妻を愛し尽くす
それが独占欲だとまでは気づいていないが、修平は自分の夫だと言いたくなる。

(私にとって野々原さんはひとりのお客様にすぎないのに、突然夫だと紹介するのは変な気がする。でも野々原さんが恋心を募らせる前に知ってほしい)

真琴が困り顔で逡巡していると、修平がほんの少し口角を上げて声をかけてくる。

「お疲れ様」

「修平さんもお疲れ様です」

「弁当、これからなんだ。医局に戻って食べる」

「今朝は朝寝坊してしまったので、簡単なお弁当なんです」

寝る前に修平が思わせぶりなことを言ったから、なかなか寝つけなかったのだ。

それで三十分寝坊して、急いで作った弁当はいつもより品数が少ない。

メインは海老と茄子の味噌生姜炒めで、他は卵焼きとほうれん草のごま和えとミニトマト、俵形のおにぎりが三つ入っている。

修平が弁当の蓋を開ける前に内容を暴露して謝れば、頭に温かな手がのった。

「十分にうまそうだ。なにも気にしなくていい。それに寝不足にさせたのは俺だろ。悪かった」

「あっ......」

原因を言わなくても気づいてくれた修平に思わず頬を染めたら、クールな目が細められた。
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