本能のまま、冷徹ドクターは新妻を愛し尽くす
「連日、寝不足にさせてすまないが、昨夜言った通り今夜は早めに帰るから」

たちまち鼓動を高まらせた真琴が恥ずかしさに目を逸らしたら、修平の斜め後ろで戸惑う野々原と視線がぶつかった。

夫婦の際どい会話を聞かれてしまったことにハッとして焦りだす。

「あの、おふたりはもしかして......」

悲しそうな顔で問いかけられた直後に、修平の胸ポケットからバイブ音がした。

院内用の携帯電話を耳にあてた修平は、用件を聞くと「すぐ戻ります」とだけ言って電話を切り、野々原に振り向いた。

「七一五号室の大島さんの担当は君?」

「はい、そうです」

「心不全を起こしてトイレで倒れていたそうだ」

「えっ!? お手洗いの際はナースコールするよう何度も伝えたんですよ」

修平と野々原が踵を返して走っていくのを、真琴は無言で見送った。

見知らぬ入院患者の容体を心配するとともに、疎外感を覚えて眉尻を下げる。

(私は看護師じゃないから一緒に行けない。当たり前のことなのに、どうしてこんなに寂しい気持ちになるんだろう?)

疑問の答えはすぐに見つかりそうになく、真琴は片づけを始めた。
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