本能のまま、冷徹ドクターは新妻を愛し尽くす
台車を押してエレベーターを待つ間も気になって、つい病棟の方を振り返る。

ナースコールや医療機器のアラーム音、バタバタと忙しそうな足音が小さく聞こえる。

命の最前線で活躍する修平と野々原を想像し、無力感を味わっていた。



窓の外には繁華街の大通りが見え、二十一時を過ぎてもビル明かりで昼間のように明るい。

ここは商業ビルの三階に入っているイタリアン居酒屋で、真琴は久しぶりに香奈とふたりで飲みに来ていた。

今夜は修平と熱い夜を過ごせると胸を高鳴らせていたというのに、二十時頃に帰宅できないというメールが届いたのだ。

担当している患者の容体が安定せず、病院に泊まってそのまま明日の勤務に入るらしい。

修平の仕事の大変さを理解し応援もしているので少しも腹は立たないが、残念には思う。

ひとりでいると寂しくなり誰かと話したくなって香奈に電話をかけたら、久しぶりに飲みに行こうと誘われたのだ。

窓際の四人掛けのボックスシートに向かい合い、香奈は二杯目、真琴は一杯目のほとんど減っていない白ワインのグラスを傾ける。
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