本能のまま、冷徹ドクターは新妻を愛し尽くす
つまみはタコのカルパッチョと、トマトとモッツァレラチーズのカプレーゼ、ペンネアラビアータとアンチョビのピザだ。

「このピザ、ニンニクがきいてるね」

香奈はすべての料理に手をつけて美味しそうに頬張っているが、真琴はまだトマトをひと切れつまんだだけである。

修平と一緒に食べようと思っていたため夕食をすませておらず、空腹は感じているのにどうにも箸が進まない。

「なんで食べないの?」

香奈に問われてタコのカルパッチョに箸を伸ばしたが、取り皿に置いただけだ。

「私だけ飲みに来ていいのか気になって。修平さんは今頃、大変な仕事をしているのに」

香奈とは幼馴染の間柄なので隠さずに本音を明かせば、「真琴らしい」とやや呆れ顔で言われた。

「気遣いができるのは真琴のいいところだと思う。でもその気の使い方は無意味だよ。真琴がなにをしていても、なにをしなくても、生嶋先生の仕事に一切影響しないから」

「うん、そうだよね......」

香奈は真琴が心置きなく食事を楽しめるように言ってくれたと思うけれど、その指摘が胸にチクリと刺さり、昼の訪問販売で感じた寂しさも思い出した。

(どうして寂しくなるのか......)
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