本能のまま、冷徹ドクターは新妻を愛し尽くす
遠慮せずどんどん食べてほしいという気持ちで香奈の皿にペンネを取り分ける。

しかし「どうしたの?」と心配そうに箸を置かれてしまったので、真琴は苦笑しながら昼間の出来事を話す。

気のある看護師と一緒に患者のもとに駆けていく修平を見送りながら、疎外感や無力感、寂しさを覚え、なぜそのような気持ちになるのかわからないと打ち明けた。

「私は医療者じゃないから修平さんの力になれないのは当たり前なのに、なぜかすごく寂しかった。今までこんなことなかったのに」

自分の心がわからないのが不快だと相談すれば、香奈が眼鏡の奥の目を瞬いて、意味ありげな笑みを浮かべた。

「ふーん、なるほどね」

「私の気持ち、わかるの?」

「簡単だよ。真琴が先生に恋しているからでしょ。好きな人の役に立ちたいのになにもできないから寂しくなった。その看護師への嫉妬も影響してるよね。口には出せなくても、私の夫を取らないでという気持ちになったんじゃない?」

「恋......」

フフッと笑う香奈を見ながら呟いた真琴は、自分の心と静かに向き合う。

志はないと言っていたが、決して手を抜かずに多くの命を救ってきた修平を尊敬している。
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