本能のまま、冷徹ドクターは新妻を愛し尽くす
一階での客足が途切れると、兄がすぐさまフードテナーを台車に戻して移動しようとする。

「お兄ちゃん待って。いつもよりお客さんが少ないから、あと五分待っていよう。きっとこれから来る人がいると思う。買いそびれたら可哀想」

「遅い客が悪い。さっさと移動するぞ。客待ちするなら最上階でだ。会えるまで帰らないからな」

(野々原さんの今日のシフト、日勤かどうかもわからないのに、ずっと待ってるつもり?)

兄に呆れたおかげで修平に会えるかもしれないというソワソワ感は緩んだが、別の緊張に襲われた。

「マコちゃん、お弁当買っていいかな?」

財布を手に現れたのは修平ではなく、ぎこちない笑みを浮かべた守也だった。

姿を見たのは婚約解消の日以来で、記憶にある彼より随分と痩せていた。

薬剤師の白い制服がだぶついている。

守也にはひどい目に遭わされたというのに、お人好しな真琴は心配になった。

「守也くん久しぶり、買いに来てくれてありがとう。すごく痩せたように見えるけど体調は大丈夫? 仕事が大変なの?」

「仕事は忙しいけどいつも通り。それじゃなくて、ちょっと色々あって悩んでいたんだ」
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