本能のまま、冷徹ドクターは新妻を愛し尽くす
守也は唐揚げ弁当を手に取り、代金を払ってから、睨んでいる真琴の兄に気まずそうに会釈した。

「お兄さん、お久しぶりです」

「てめえにお兄さんと呼ばれる筋合いはない。よくマコの前に顔を出せたな。お前のせいでマコがどれだけ傷ついたか――」

「お兄ちゃん、やめて。ここは病院だよ」

掴みかかる勢いの兄を慌てて止めた真琴は、早く離れてという気持ちをこめて守也に目配せした。

けれどもなにを勘違いしたのか、守也はパッと表情を明るくして頷くと兄に頭を下げた。

「婚約解消のこと、大変申し訳ございませんでした。深く反省しています。ついては今後について話したいので、すみませんが少しの間マコちゃんをお借りします」

「えっ?」

片手に唐揚げ弁当を持ち、もう一方の手で真琴の手首を握った守也が、外来の会計カウンターの横の通路に向けて速足で歩きだす。

「お兄ちゃん、ごめん。ちょっとだけ抜けるね。上の階に移動していいよ」

「お、おい」

妹の奪還と、愛しの野々原に早く会いたい気持ちを天秤にかけているのか兄は迷っており、その間に真琴は守也に連れられ外来ロビーを抜けた。
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