本能のまま、冷徹ドクターは新妻を愛し尽くす
(投薬量がひと桁間違っているのか。俺はなぜこんなミスを)

手書きの処方箋であったなら医療事故に繋がりかねない危険なミスだと気を引き締めようとしたけれど、どうにもやる気が起きずため息をついた。

(ここ最近、不調だ。原因はわかっているが対処法がわからない)

心の中には曇天のようなどんよりとした不安が広がっている。

修平の人生で解消不可能な不安を抱くのは初めてのことなので戸惑っていた。

真琴が作ってくれた今日の弁当を思い出し、心の平穏を保とうとする。

(ホタテの炊き込み飯と、カニシュウマイ、レンコンのきんぴらに野菜の煮物、いんげんのごま和え、どれもいつも通り手が込んでいてうまかった。だから大丈夫だ。真琴は離婚したいとまでは思っていないはず)

季節が冬に変わり、結婚生活が半年過ぎたところだが、親密になりつつあった夫婦関係が冷えてきている気がしていた。

今月はふたりの休日が重なる日が二回もあったのに、パート従業員がひとり辞めてしまって人手不足だからと仕事に出るらしい。
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