本能のまま、冷徹ドクターは新妻を愛し尽くす
関根に声をかけられて修平が腰を上げたら、看護師長に待ったをかけられた。

「生嶋先生は駄目です。関根先生と他の先生方に任せましょう」

「なぜ?」

こういう場合、今までだと真っ先に修平が呼び出されてきた。

心臓血管外科医として飛び抜けて優秀な腕前をしているので、時間との闘いの救命処置を任されることが多い。

怪訝そうな修平を、看護師長が気の毒そうな目で見る。

「搬送中の女性は、生嶋先生の奥さんです。仕事での移動中に事故に巻き込まれたようで......」

(真琴が!?)

修平の脳裏に花福のワゴン車を運転する真琴が浮かんだ。

大型車も交じる多重衝突事故に巻き込まれた結果、車は潰れ、精魂込めて作られた弁当が散らばり、真琴はハンドルと座席に挟まれて――。

想像してしまった悲惨な事故現場に血の気が引いた修平は、直後に身をひるがえして駆け出した。

けれども心電図モニターの配線に足を引っかけて転びそうになり、関根に腕を掴まれ支えられた。

「看護師長の言う通り、お前はここに残れ。そんなに取り乱した状態でなにができる。救命の邪魔になるだけだ」

厳しい指摘を得て、修平はハッと思い出した。
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