本能のまま、冷徹ドクターは新妻を愛し尽くす
『常に冷静沈着で感情的にならない人の方が外科医に向いていそうな気もします。私みたいに慌てたり焦ったりしていたら手元が狂いそうですもの。修平さんが外科医にならなかったら、人生がそこで終わっていた患者さんもいるんじゃないでしょうか。私は修平さんを尊敬しています』

人助けの志がない自分は医師に不適格な人間だと打ち明けたら、真琴がそう言ってフォローしてくれた。

医師に向いているとは今も思えないが、それでも真琴から信頼されているのは嬉しく、その気持ちを裏切りたくないと思って働いている。

仕事での今の原動力は、紛れもなく真琴がかけてくれた言葉だった。

修平は目をつむって大きく息を吸い、ゆっくりと吐き出しながら目を開けた。

その顔から焦りは消え、手も足も震えず思考もクリアになる。

一見するといつもの修平に戻っていた。

「取り乱してすみませんでした。もう大丈夫です。俺が執刀するので関根先生には補助をお願いします。妻は俺が助けます」

「修平......わかった。行こう」

救急車のサイレンが近づいてくる。
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