本能のまま、冷徹ドクターは新妻を愛し尽くす
空はオレンジ、紫、紺色のグラデーションに染まり、さざめく海が夕焼けを映していた。

「わぁ、きれいですね。写真で見るよりずっと。来てよかったです」

素敵なデートの締め方だと真琴は嬉しく思っていたが、左隣から返事はない。

修平を見ると夕日に目を細めつつもその面持ちは硬く、思いつめたような雰囲気を感じた。

『快気祝いを兼ねて――』

デートに誘われた時に彼がそう言っていたのを思い出し、真琴は急に嫌な予感に襲われた。

(このデートの主目的は他にあるのかも。それは私にとってよくないこと? 楽しい時間を過ごしてから、なにか言いにくい話を切り出そうとしているの? あっ、もしかして......)

真琴の頭に〝離婚〟の二文字がよぎった。

事故に遭ってからというもの、修平はかいがいしく世話を焼き真琴の生活を支えてくれた。

気が滅入りそうな入院中は毎日顔を出し、必ず治るから焦らないようにと励ましてくれて、精神的にも随分と助けてもらった。

ただでさえ多忙な彼が真琴の面倒までみるのはさぞ大変だったことだろう。

すっかり修平に頼り切り、足を引っ張るだけの存在になっていた三か月ほどを振り返って不安が強まる。

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