本能のまま、冷徹ドクターは新妻を愛し尽くす
修平が変わるきっかけがあの事故だったと言われて、迷惑をかけたという罪悪感が薄らいだ。

別れ話をされると思ったのは取り越し苦労だったかとホッとしたが――。

少々高い波が桟橋にあたって弾け、空気に塩辛さを感じたら、修平が笑みを消した。

「離婚しよう」

覚悟を感じさせる強いまなざしとはっきりした口調で言われ、真琴は大きなショックを受けた。

(やっぱり、そうなの......)

目の前が一段階暗くなり、圧倒されるほど美しかった夕日が濁って見える。

肩を落としてうつむいた真琴は、嫌だと泣いて縋りたくなる気持ちを必死になだめた。

(そもそもおかしな始まりの結婚だったもの、諦めないと。ここで引き留めても、修平さんが私を好きになることはないから悲しいだけ。どちらかが嫌になったら離婚するという約束もある。いい大人なんだから、今まで支えてもらったことに感謝して潔く別れよう)

泣くまいと唇を噛んで顔を上げ、無理して笑みを浮かべた。

「わかりました。離婚しましょう。最後に楽しいデートができてよかったです。空が燃えるように赤くてきれいですね」

美しいと感じられないほど傷ついていても、強がって遠くの空を見る。
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