本能のまま、冷徹ドクターは新妻を愛し尽くす
(この結婚がなければうちの親を悲しませるところだった。私も少しは悔しさを晴らせたし、結婚してよかったんだよ)

親族席は新婦側にだけ設けられていて、真琴の両親と兄、親戚たち二十人が座っているが、新郎側にはひとりもいない。

修平の両親は幼い頃に他界して兄弟もなく、結婚式に参列してほしい親戚もいないそうだ。

彼が真琴の両親に結婚の挨拶に来た際、出身校や職歴は教えてもらったが、趣味や嗜好など彼がどういう人となりかはまだよくわからない。

(利害が一致してのこの結婚。嫌になったら離婚していいとも言われたけれど、可能なら仲よく楽しく暮らしたい。他愛ない話で笑ったり、時にはくだらない喧嘩をしたり、いつかは心を通わせてふたりで温かい家庭を......どうしよう、作れる気がしない)

真琴の中での修平のイメージは、商売中に絡んでくる〝迷惑なお客さん〟だった。

それには誤解があったと今はわかっているが、好印象に変わったと言えるほど付き合いを深めていない。

三々九度は三つ目の盃に入り、修平が口をつけた後に真琴に渡された。

一の盃は夫婦の過去、二の盃は現在、三の盃は未来を表すという。
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