本能のまま、冷徹ドクターは新妻を愛し尽くす
人がよすぎて損をしていると香奈に指摘されたこともあったけど、真琴はコンプレックスが多い中で自分のそういう部分は好きだった。

(ふたりが喧嘩してほしいとは思わない。幸せを願えるほどのお人よしではないけれど)

悲しみの涙はまだ頬を濡らしているが、ため息をついて諦めた真琴は婚約指輪を隠していた右手を外した。

キラリと輝くダイヤの指輪を外す前に目に焼きつけようと見つめていたら、急に隣に誰かが立った気配がした。

作務衣姿の店員ではなく、客の男性のようだ。

うるさくしたつもりはなく、なんだろうと思って真琴が顔を上げるのと、その人に左手を取られるのが同時だった。

「生嶋先生!?」

Vネックの白いシャツにグレーのカジュアルなジャケット、黒いストレートズボンという服装の修平が無表情で真琴を見下ろしている。

そういえば守也を探して店内を見回した時に、このテーブルのすぐ横のカウンター席に同じ恰好の男性が座っていたような気がする。

まさか修平だったとは思わず涙が引っ込むほどに驚き、その直後に強い気まずさに襲われた。
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