本能のまま、冷徹ドクターは新妻を愛し尽くす
(やっぱり冗談だったのかも。もしくは婚約者に捨てられた私に同情して、助けてあげようという気持ちがプロポーズみたいな言葉になってしまったのか)

彼の胸の内を推測していたら、六メートルほど先でやっと修平が振り返った。

真琴の方へ引き返してきた彼はほんの少し、眉尻を下げている。

「すまない。歩くのが速かったな。君が小さいのを考えていなかった」

嫌味かと思ったが、真琴に向けられる眼差しに悪意は感じられない。

「私、百七十三センチもありますけど」

眉を寄せた真琴の頭に大きな手がのせられ、その手が彼の顔までスライドする。

その高さは鼻頭の位置だ。

「君の方が十二センチ低い。俺から見れば小さい」

「そう言われると、そうですね」

真琴はハッとして、目から鱗が落ちたような心持ちがした。

(大きいか小さいかは比べる対象による。当たり前のことなのにどうして今まで気づかなかったんだろう。生嶋先生と一緒にいたら、私は小柄になれるんだ)

涼しい夜風が胸にまで吹き込んだ気がして、長年のコンプレックスが急に軽くなった。

「ありがとうございます!」
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