本能のまま、冷徹ドクターは新妻を愛し尽くす
この調理場は二十畳ほどもあるのだが、大型冷蔵庫が三台に六口のガスコンロ、業務用の食器洗浄機やオーブン、八つの調理台があるので狭く感じる。

真琴の後ろでは五分刈りのごま塩頭に板前帽をかぶった父が、蒸し器にカニシュウマイを並べていた。

「マコ、母さんが戻ったらすぐ次の現場に出るぞ。冷菜を車に積んどけ」

マコは真琴の愛称だ。

今日は法要の会食注文が昼に三件入っていて、二件は懐石弁当を届けるだけなのだが、一件は給仕が必要なコース料理となっている。

真琴の母は今、配達に出ており、戻ったら車を乗り換えてパート従業員ふたりと一緒に隣市のセレモニーホールまで出かける。
その時刻が迫っていた。

壁掛け時計は十一時五分を示している。

真琴は根菜の煮物に紅葉麩を丁寧に飾りつつも、焦って答える。

「こっちももうすぐ出るから急いでる。お兄ちゃんは?」

パート従業員もそれぞれ忙しそうに作業しているので頼めず、兄の姿を探したら、調理場の隅でビールケースに腰かけていた。

三歳上の兄は長身で見目好い部類の顔立ちをしているが、怠け者なのが難点だ。

「お兄ちゃん、なにやってるの!」

「疲れたからスマホゲーム」
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