本能のまま、冷徹ドクターは新妻を愛し尽くす
それを聞いた真琴の胸に、愛華に対する怒りがふつふつと込み上げた。

(生嶋先生がなびいてくれなかったから守也くんを狙ったってこと? そんな軽い気持ちで私から婚約者を奪ったの?)

薄々感じていたが、どうやら愛華はしたたかに男性を狙う肉食系女子のようだ。

か弱い女性を演じて守也の庇護欲を掻き立てた愛華に嫌悪感を覚え、その作戦にまんまと引っかかった守也には呆れていた。

唇をかみしめた真琴は、修平の提案に乗ってみようかという気持ちになりかける。

けれども容姿に欠点が多くても心はきれいでいたいという思いが邪魔をして、悔しさや嫉妬を隠そうとする。

「私は別に、九波さんに仕返ししたいとは思いません。フラれたのは私に魅力がなかったからで、九波さんのせいにしたくありません」

「本当に?」

再び探るような視線を向けられ、真琴はまた顔を逸らした。

すると器用そうな長い指が真琴の顎をとらえ、強引に顔の向きを戻される。

拳三つ分の距離に美々しい顔が迫り、微かに病院の消毒液の香りがした。

目を見開いた真琴は、たちまち高鳴る自分の鼓動を耳元で聞いている。
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