本能のまま、冷徹ドクターは新妻を愛し尽くす
修平のジャケットの肩に大きな涙のしみを作ってしまい慌てたが、彼はまったく気にしていない。

「そのうち乾く。それより返事を聞かせてくれ。俺と結婚する気になったか?」

「本気で言っているんですか?」

「もちろん」

「う、うーん、そうすると仕返しした気分にはなれそうですし、うちの両親をがっかりさせずにすみそうですけど......」

真琴の両親は少々古い考え方を持っていて、女は三十前に嫁がないと行き遅れだと常々言われていた。

娘が婚期を逃すという心配をかけずにすみそうで、徳明会病院の医師ならば安心してくれそうな気もする。

修平との結婚は真琴にとってメリットがあるようだが、彼の方はどうなのか。

「私と結婚しても生嶋先生に得はありませんよね?」

同情だけで結婚してあげようというのなら、やめておいた方がいい。

一緒に暮らす中で意見がぶつかった時に、乗り越えられる気がしないからだ。

ゆっくりと歩き出した修平の隣をついていく。

なにかを考えているような間を置いてから、彼が感情のこもらない淡白な声で答えた。

「俺には親がいない。子供の頃に亡くなったんだ。それからの生活は――」
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