本能のまま、冷徹ドクターは新妻を愛し尽くす
修平に兄弟はなく、幼い日に両親が亡くなった後は親戚の家を転々として暮らしたそうだ。

その親戚のひとり、母方の伯父が、取引先の重役の娘との見合いを修平に勧めてきたらしい。

「伯父に恩はあるが、見知らぬ女と見合いする気はない。君と結婚したら断る口実ができて助かる」

「そういう事情があったんですか。でもそれって私じゃなくてもいいってことですよね。知り合いがいいなら看護師さんにお願いすればいいんじゃないですか? 生嶋先生が女性に人気なのは知っています」

真琴の頭に浮かんだのは訪問販売の客でもある看護師、数人の顔。

若くてきれいな看護師たちが頬を染めつつ修平に話しかけていたのを、何度か目撃したことがあった。

ただの知り合いの真琴より、彼女たちの方が結婚相手に向いているような気がした。

修平の横顔を見ながら歩いているが、異性に人気があることを指摘されても照れたり否定したり、得意げな様子もない。

(こんなに感情が読めない人は他に知らない。なにを考えているんだろう?)

ふと淡い明るさに気づいて真琴が前を見ると、十本ほどの並木に満開の桜が咲いていた。
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