本能のまま、冷徹ドクターは新妻を愛し尽くす
外灯に照らされた薄ピンクの花が風にハラハラと舞っている。

吸い寄せられるように桜並木に駆け寄り、外灯に照らされる梢を見上げた。

「まだ散っていなかったんだ。きれい」

四月も後半に入ったというのに花盛りなのは、両サイドに高層マンションが建ち日当たりが悪いせいだろう。

守也と行くはずだったのは花見客が多く集まる有名な公園で、こんな近くに穴場があったのかと真琴は笑みを浮かべた。

(後で守也くんに教えてあげないと......あっ)

嬉しい気持ちを共有したいと習慣的に思ってしまい、その直後に守也と花見をする機会は二度とないことに気づいて空しさに襲われた。

真琴がうつむいたら手を強く握られてハッとし、修平に振り向く。

「大谷真琴。俺は君がいい」

フルネームを呼ばれて驚いた。

訪問販売時に着ているエプロンには屋号しか書かれておらず、香奈や守也以外の客には〝花福さん〟と声をかけられることが多い。

(私の名前、知っていたんだ)

加えて射貫くような強い目をして『君がいい』と言われたら、乙女心が嫌でも刺激される。

愛の告白が続く予感に心臓が大きく波打った。
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