本能のまま、冷徹ドクターは新妻を愛し尽くす
仕出し屋の出勤時間は朝早く、この時間になれば休憩したくなるのもわかる。

けれども皆が忙しく立ち動いている中で、よくひとりだけ座っていられるものだ。

悪びれる様子が少しもない兄を父が叱る。

「泉(いずみ)、お前はどうしていつもやる気がないんだ。一生懸命な妹を見習え」

「店を継ぐのはマコなんだから、こいつが一生懸命になるのは当たり前」

真琴はため息をついて自分の作業を中断し、冷蔵庫から刺身や酢の物などの冷菜、十八人前を出す。

兄に協力を求めるより、自分が動いた方が早いと思ったからだ。

しかしながら不満は募る。

(私が五代目になるのは、お兄ちゃんに任せたら店が潰れそうだからじゃない。まぁ、私のやりたいことでもあるんだけど)

真琴は作るのも食べるのも好きなので、この仕事は天職だと思っている。

高校卒業後は進学せずに花福で働き、両親から店を継いでほしいと言われた二年前からはさらに張りきって仕事に邁進する日々を送っていた。

花福の暖簾を守り、たくさんのお客さんの腹と心を美味しい料理で満たすのが夢である。

対して兄はこの仕事が好きではないようで、兄妹なのに同じ志を持って働けないのは残念だ。
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