本能のまま、冷徹ドクターは新妻を愛し尽くす
そろそろ帰るだろうかと予想して、真琴は兄を急かした。

「お兄ちゃん、手伝ってくれてありがとう。もう仕事に戻っていいよ」

「今日はパートさんが四人もいるから平気だろ。俺は奴の顔を見てから帰る」

「奴って言わないで」

真琴の両親は婚約破棄された娘と結婚してくれた修平に恩を感じ、しかも大病院の医師だから幸せは保障されていると大喜びしていた。

しかし兄には反対された。

『やけになるな。結婚相手は慎重に選べ。付き合ってもいないのにプロポーズするとは、どう考えてもおかしい男だろ』と、珍しく真剣な顔で諭されたのだ。

結婚式は親族のみを招待した神前式で執り行い、披露宴は開かなかった。

その際に修平側の親族がひとりもいなかったのも、兄の懐疑心を膨らませた原因だ。

子供の頃に世話になった伯父を呼ばなくていいのかと真琴も気にしたのだが、修平には『いい』のひと言で片づけられた。

伯父が勧めてきた見合いを断ったから顔を合わせにくいのだろうと解釈し、真琴はそれ以上口を挟まなかった。

結婚式をすませても修平への警戒心を解いていない兄は、ソファにふんぞり返るようにして高い天井のシーリングファンを睨んでいる。
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