本能のまま、冷徹ドクターは新妻を愛し尽くす
写真の中で作り笑顔を浮かべる自分を寂しく感じた。

額縁を外した真琴はシューズクローゼットを開け、とりあえずそこにしまっておいた。



それから時計と玄関を気にしながら自分の寝室で一時間ほど荷物整理をしていると、玄関ドアが開いた音がした。

「お帰りなさい」

出迎えた真琴の鼓動は二割増しで速度を上げ、笑みもぎこちない。

ただの知人からいきなり夫婦になり今日からとも同生活が始まると思えば、緊張するのは仕方ないだろう。

修平は半袖のボタンダウンシャツにグレーのズボンというラフな格好をして、真琴と違って少しも身構えたところがない。

「ただいま」

ニコリともせずに挨拶を返し靴を脱いだ彼は、なにかに気づいたように壁に視線を止めた。

「そこに飾ってあった写真はどうした?」

「あ、外して片づけたんですけど......」

インテリアはプロ任せでこだわりはなさそうなのに、指摘されると思わず戸惑った。

「俺が飾るように注文したんだ。嫌だったか?」

まさか彼の指示だったとは思わず、真琴は驚いた。

加えてその声に残念そうな響きをわずかに感じ、焦って言い訳をする。
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