本能のまま、冷徹ドクターは新妻を愛し尽くす
しかしキスを受け入れるか拒むかで激しく心を揺らしているというのに、真顔の修平の腹がグウと鳴った。

「腹減った。なにか食べ物ある? なかったら買いに行く」

「お昼ご飯、まだなんですか?」

「オペに入っていたから食べていない」

午前中からの手術を一件執刀し、その後は受け持ちの入院患者を診察してカルテや処方箋を書き、研修医に指示を出したら急いで病院を出たという。

同居初日は真琴とゆっくり話す時間を作りたかったらしく、その気遣いを意外に思いつつ真琴は張りきった。

職業柄か空腹の訴えを適当に扱うことはできない性分なのだ。

(腹ペコだなんて一大事!)

キスの予感への動揺は瞬時に忘れ去り、爪先をリビングの方に向けて早口で問う。

「すぐ作ります。肉より魚介が好きだと言っていましたよね。和洋中、どれがいいですか?」

「和」

「車海老、きす、ししとう、茄子、とうもろこしの天ぷらと、ざるそばでいいですか? 十五分でできます」

再び鳴った大きな腹の音が返事のようだ。

これまで修平には何度も弁当を作ってきたけれど、それは代金をもらっての商売である。
< 69 / 211 >

この作品をシェア

pagetop