本能のまま、冷徹ドクターは新妻を愛し尽くす
初めて夫のために料理をする真琴の胸は喜びに弾み、真新しいキッチンに立つと、お気に入りの花柄エプロンを勇んで身に着けた。



「マコ、お疲れ」

徳明会病院の一階で真琴が訪問販売をしていると、香奈が弁当を買いに来た。

「次の階に移動しようと思ったところだったんだ。間に合ってよかったね」

台車に積んだばかりのフードテナーを長机に戻したら、香奈が腕時計を確認して首を傾げる。

「切り上げるの、早くない?」

弁当の種類が豊富なうちにと他の階の従業員も買いにくるので、一階での販売は一番客が多い。

いつも二十分ほどかかるが、今日は一時的に客足が途切れたので商いを始めて十分少々で移動しようとしていた。

婚約解消してから守也の顔を見ていないが、弁当を買いにきたらどうしようという思いがある。

別れから二か月ほどが経って守也の顔を思い出す回数はだいぶ減ったけれど、会えば傷口が開きそうな気もしていた。

しかしいつもより早く上の階に移動しようとしている理由はそれだけではない。

香奈の疑問に真琴は苦笑して答える。

「色々と聞かれて困るから、早く終わらせたいんだ」

「そっか。噂されているものね」
< 70 / 211 >

この作品をシェア

pagetop