*塞がれた唇* ―秋―
 モモの両肩に手を置き、彼女を自分から引き離して見つめる……と、或ることに気が付いた。

 ──こいつ……?

「わっ! 何だ!? 今度は凪徒の反撃か!?」

 凪徒は自分の両手の間で、どうやら眠ってしまったらしいモモの唇に顔を寄せた。

 完全に音のなくなった世界で(ただ)一つ、皆の息を呑む音だけが響き渡る。

 が、実際唇に寄せられたのは、凪徒の形の良い鼻先だった。そして微かに──香る……日本酒……?

「誰だ~っ! モモに酒呑ませたのは!!」

「「「へっ!?」」」

 凪徒の大声に、全員の口から(こぼ)れ出す驚きの声。

 それからしばらくシンと静まり返ったが、おどおどと片手を上げたのは、先程までモモの隣にいたリンだった。

「も、もしかしたら……さっきみんなでお寿司のワサビ・ロシアン・ルーレットやってて……モモたんが当たって「お水~」って言ったからコレを……」

「あー! それ、俺がそっちに行った時に忘れてきた冷酒……(ほとん)ど無いじゃないかよ~」

 リンが手に持ち、指し示したグラスには、遠目では分からない程の僅かな液体が残されていた。


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