*塞がれた唇* ―秋―
「ったく! 暮、んなもん、未成年の所に置いてくるな! リン、ちょっと水貰ってこい!」

「ハ、ハイっ」

 慌てて出口を目指したリンに秀成も続く。

 凪徒は目の前でスヤスヤ眠りこけたモモを、仕方なく自分の左腕で抱え込んだ。

 やがてなみなみと水の入ったボトルとグラスが、リンの手によって運ばれた。

「モモ! 起きろ、ほら、水飲めっ」

 注がれたグラスをモモの唇に近付けると、眠ったままでも本能的に飲み出し、凪徒は少しホッとする。

「口移しで飲ませちゃった方が早くないか~?」

 暮は相変わらず横から茶々を入れたが、凪徒はギロッとそちらを振り向いた。

「元はと言えば、お前の所為(せい)だ! だったらお前がやれっ!!」

「いいのか~? お前がいいって言うなら、ホントにやるぞ~~~」

「……よっ、良くない!! ──あ! もちろん()くまでも、モモの主観で言ってるから誤解すんなっ」

「ふーん?」

 うっすら顔を赤くした凪徒は、横目で(もてあそ)んでくれた暮を無視して、再び(ふところ)の中のモモに視線を戻した。

 いつまでもチョロチョロと水を飲み続けているモモは、まるで大きな()飲み子のようだ。


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