*塞がれた唇* ―秋―
「まったく……急性アル中にでもなったらどうするつもりだったんだ……リン、お前、モモと部屋一緒だったよな? 連れていくから鍵開けろ」

「ハーイ! ヒデナー、また後でネ」

 リンは茶羽織の内ポケットから和柄の巾着(きんちゃく)を取り出し、部屋の鍵を手に取った。

 モモを抱き上げ立ち上がった凪徒を、誘導するように歩き出す。

 何故か何処(どこ)からか女性達の黄色い歓声が上がったが、凪徒はそれも無視して軽々と歩を進めた。

「凪徒~、送り狼になるなよ~」

「うっさい、バカっ!!」







 背後からの暮の冷やかしに、まるで本物の狼のような(うな)り声を上げて立ち去る凪徒。

 再び賑やかになった宴会場から、(ふすま)一枚(へだ)てた廊下に出て、ようやくホッと息を吐く。

「ナッギー、こっちこっち~」

「ナッギー? ああ、俺のことか」

 もはや「変なあだ名で呼ぶな」と改めさせる気にもならず、全く動く気配のないモモを、(いざな)うリンに続いて運んでいった──。


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