*塞がれた唇* ―秋―
「く……苦し……もう、食べられません~……」

 ──食べ過ぎで呼吸困難に(おちい)ったとでも思ってるのか?

 呆れて怒る気も失くしてしまう。

「酔ってあんな醜態が出てくるなんて……そんなに俺のデコピンが恐怖だったのかよ……」

 しばらくしてモモは静かな寝息を立て始めた。

 その柔らかな寝顔を見下ろし、やがて凪徒の心にも穏やかなしじまが立ち込める。

 ゆっくりと右手を上げ、そっとモモの頬に触れる。

 ──杏奈が触りたくなるのも、分からない訳でもない……な。

 モモは無意識に、その凪徒の手の甲に指先を落とすと、ふっと唇に笑みを(たた)えた。

 ──しっかし、息を止めても目覚めないんだったら、違う方法で口(ふさ)いでやれば良かった。

 ==え!? そ、それって……凪徒さん?==(作者の声)

「ゆっくり休めよ、モモ。……明後日から……またビシビシ鍛えてやるからなぁ!」

 そう(つぶや)いて、口の(きわ)を鋭角に上げた凪徒の表情は、まさしく魂を奪いにやって来た死神の微笑みそのものだった……!






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