君と見た夏の景色
いつもと同じ窓の外をじっと見つめていた。

HRが始まる前の教室には続々と生徒が入ってくる。

「夏海、おはよっ」

突然肩を叩かれて振り返ると、

そこには親友の唐橋優芽がにこにこして立っている。

「おはよー」

優芽は私の顔をのぞき込むと

「なーにつまんなそうな顔してんの!」

っと背中をバシッと叩いてきた。

「もっと手加減してよ……」

背中をさすりながら私が言うと、

優芽はごめん、ごめんと笑った。



私がつまらなそうにしている理由は特にはない。

ただ、毎日に変化がなくてそう感じているだけ。

でも自分で何かをしようとすることも無いのだ。

優芽と話していると、

ひとりの男子生徒が話しかけてきた。

「おっはよー、何話してんのー?」

私の幼なじみの蒼井修斗。

修斗とは幼稚園の頃から仲が良くて、

高校さえも一緒だ。

「おはよ、修斗」

私がそう返すと修斗はニコッと笑うが、

ふと何かに気がついたような顔になると、

私の頭に手を伸ばした。

「ごみ」

頭から離した修斗の手を見ると、そこには糸くずが。

「ああ、ありがとう」

手櫛で髪を整えながら黙っている優芽の顔を見ると、

こちらを見ながらにやにやしている。

「何にやにやしてんの?」

優芽がさらに口角を上げた。

「いやー……ね? お似合いだなぁと思いまして」

私は小さくため息をついた。

「だーかーら、修斗とはそんなんじゃないってー!

ねぇ? 修斗っ」

修斗の方を見ると修斗はただ笑うだけだった。



先生が教室に入ってくると、

生徒たちは慌てて席に着く。

先生がいつものように出席確認を終えると、

「今日は転校生を紹介する」

と告げた。

それまで静かだった教室内はざわつき、

先生が教室に転校生を入れると更にざわついた。

まず目に付いたのは大きな瞳だった。

そして、背が高くて髪がふわふわしている。

「菊池湊です。 よろしくお願いします」

クラスの女子たちは落ち着かない様子で湊を見る。

先生が1番後ろの席を指定すると、

湊は小さくお辞儀をして、静かに席に着いた。



授業の間の休み時間になると、

一斉に女子たちが湊の席を取り囲んだ。

「ねぇ、菊池くんってどこの高校から来たのー?」

「彼女とかっていたりする?」

怒涛の質問攻めだ。

私がその様子を優芽と修斗と遠目から眺めていると、

女子たちの隙間から僅かに見えた湊と目が合った。

少し驚いてすぐに目を逸らした。

でも気になってもう一度見てみると、

今度は大勢の女子で姿も見えなかった。



4限目の授業のとき。

移動教室先の化学室に優芽と向かっていると、

ノートを教室に忘れていることに気づいた。

「あー、ごめん優芽。 ノート忘れたから取ってくる」

「わかったー、急げ急げっ」

優芽に軽く手を振って元来た道を小走りで戻る。

でも戻っている途中でチャイムが鳴ってしまって

始業に間に合わなかったので、

諦めて途中からは歩いていた。

閉まっている教室のドアを開けると、

1番後ろの席に目がいった。

頬杖をついて窓の外を見ていた湊が、

ゆっくりとこちらに目を向けた。

大きな瞳に見つめられて少し緊張しながらも、

自分の席まで行き、机の中からノートを取りだした。

湊を盗み見てみると、もう窓の外を見ている。

「……授業始まってるよ?」

恐る恐る話しかけると、数秒反応がなかったが、

またゆっくりこちらを見るとよく通る声で言った。

「うん、知ってる」

知ってる……? 思わず眉間にシワがよる。

「行かないの?」

「どこに行けばいいのか知らないし」

さっき女子たちがあれほど探し回っていたから

もう先に行っているものかと思っていた。

「女の子たちに教えてもらえばよかったのに。

探してたよ? さっきまで」

湊は無表情でまた外を見るとそのまま何も言わない。

私は胸の前でノートをぎゅっと抱きしめながら

湊の前の席に座った。

「え……? 何してるの?」

湊が驚いたような声を出したから、前を向いたまま

「なんか私も面倒臭くなっちゃった」

と言うと、しばらくたってから湊の笑う声がした。

振り向いて見てみると、初めて湊の笑顔を見た。

ドキッと心臓が鳴った。

なに? ドキッて。

「笑った顔、初めて見たっ」

私がそう言うと、湊は顔を机に伏せた。

「隠さなくてもいいじゃん」

「顔見られんの嫌なの」

「ふーん……」

結構かっこいいのにな。

疑問にも思ったが、聞かない方がいい気がして

その事については触れなかった。

数分の間、お互い何も話さず沈黙が続いた。

何を話そうかと話題を探していると、

湊が口を開いた。

「名前、なんて言うの?」

確かに言っていなかった。

「渡辺夏海……です。 よろしくね」

「うん。 よろしく」

その時は、初めて湊と話したのに

なぜだかすごく居心地が良かった。

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