双子ママですが、別れたはずの御曹司に深愛で娶られました
「よかった。でしたら、僕も今飲み物を買ってくるのでご一緒させていただいてもいいですか?」
「は、はい。構いませんけれど」
 私に一度会釈してレジカウンターへいそいそと向かう彼の後ろ姿を見て、ドキドキしている自分に気がつく。
 なに、今の表情......。この間はキリッとした仕事中の凛々しい顔と、爽やかな笑顔を見た。だけどさっきのは、なんていうか......可愛かった。
 一瞬だけ見た無邪気に喜ぶ彼を思い出しては、頬が熱くなる。
 落ち着け、落ち着けと胸の内で繰り返し、ホットココアを口にする。数分後、彼が戻ってきて隣の席にドリンクカップを置いた。
「お待たせしました。どちらがいいですか?」
「え?」
 彼を見上げると、個包装のバウムクーヘンとクッキーを持っている。
 私が目を瞬かせると、彼はふわりと笑った。
「甘いものが好きかわからなかったのですが、もしよければ。ボールペンのお礼です」
 さっきほんの少し落ち着いたはずの心臓が、瞬く間に高鳴りだす。
 違う。これは......〝そういう〟のじゃない。見目がよくてこんな気遣いさえも慣れていないから、緊張しているだけ。絶対、思い違いなんかしない。
「じゃあ......こっちを」
 つとめて冷静に振る舞い、私はバウムクーヘンを指さした。
「はい。どうぞ」
 私の心境など知る由もない彼は、柔らかく目を細めてバウムクーヘンを差し出してきた。私は両手で受け取り、「すみません」と軽く頭を下げる。
 彼は隣の椅子に座り、深々とお辞儀をした。
「改めまして、先日はありがとうございました。助かりました」
「いえ、本当大したことではないので。こちらこそ貸し逃げしてすみません。途中で出なければならなくなって」
「ちなみにどんなお仕事されてるんですか? 営業のお仕事とか?」
「はい。そちらも?」
「ええ。僕も似たような感じです」
 当たり障りのない会話を重ねていたら、ふいに彼がこちらを観察するようにまじまじと見てくる。距離が近いのと、あまりに綺麗な顔立ちの人に見つめられると、大したことのない自分がとても恥ずかし思えて視線を逸らしてしまう。
 あっ......。今のはさすがにあからさまに避けすぎたかもしれない。
 どうしようかと気まずい気持ちになっていると、彼が自分を指さして言った。
「僕のこと、覚えていませんか?」
「え?」
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