双子ママですが、別れたはずの御曹司に深愛で娶られました
 今日だって、雄吾さんとせっかく会う約束しているのに、湿った空気で髪がうまくまとまらない。服や靴も雨のことを気にしなければならなくて、やっぱりストレスだ。
 私は部屋の時計を見て、待ち合わせ時間が近づいてきたのを確認する。
 今日の待ち合わせは午前十一時。雄吾さんが私のアパートまで車で迎えに来てくれることになっていた。
 私は傘を持って、アパートの階段を下りる。ワンタッチボタンで傘を広げ、道路の手前まで移動した。すると、ちょうど雄吾さんの車が見える。
 目の前に一時停車した車に、私は急いで乗り込んだ。
「わざわざこっちまで来てもらってごめんなさい」
「いや。だって雨ひどいだろう? ああ。乗るだけの少しの時間でこんなに濡れて」
 雄吾さんは心配そうな面持ちで、私の濡れた頬を優しく拭った。
「大丈夫です。それにしても本当毎年のことなのに、どうしても憂鬱な気分になるのは否めないなあ」
「そうだね。なにか楽しいことでもして気分を上げよう」
 彼は私を一瞥するとニコッと笑い、車を発進させた。ハンドルを握り、前方を見ながら続ける。
「電話でも伝えてあるけど、今日はちょっと僕に付き合ってもらってもいい?」
「もちろん。文学館ですよね」
 目黒区にある約半世紀前に開館した歴史ある施設らしい。その昔、文学者や研究者の人たちが文学資料の保存などの必要性を感じ、そういう施設を作るべく精力的に活動していたとインターネットに書いてあった。
 実のところ、『文学館』なんて私の柄ではない。しかし、それを雄吾さんに黙っているわけではなく、今日の目的は文学館に併設されているカフェだ。
「館内のカフェはフードメニューは多くないようだけど、美味しいと評判だよ。もちろんコーヒーは言わずもがな、社内で訪問したことのある人が絶賛していた」
「そうなんだ。楽しみ!」
 車で移動すること三十分ほど。
 私たちは近くにあるパーキングに車を止めて、歩いて文学館を目指す。車から降りる際、シートベルトなど慣れていない私がもたついている間にも、雄吾さんが運転席側に回っていた。私が雨に濡れないように、傘をさして。
「ごめんなさい。遅くて」
「いや、大丈夫。あ、傘は広げなくてもいいかな。すぐ近くだし歩道も狭いから、僕の傘に入って」
 雄吾さんに言われ、私は傘を車内に置いて地面に足をつけた。
「ありがとう」
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