双子ママですが、別れたはずの御曹司に深愛で娶られました
 雄吾さんはそう言って、綺麗に磨かれた革靴をさらにこちらに近づけた。そして、目の前に手のひらサイズの箱を差し出す。
「これを春奈に受け取ってほしい」
「これは......」
「もう一度、二年前からやり直したい」
 手を伸ばして箱の中身を確認しなくてもわかる。
 角が少し丸みを帯びた高級感のあるスウェード素材のケース。物語などで大体プロポーズの際に渡すものだ。
 私は困惑しながら彼を見て、小さく首を横に振った。
「どうして。私はもう」
「自分でもどうかと思う。でも春奈を見つけた瞬間、体裁とか恥とか気にしていられなくなった」
 ストレートな言葉に絶句し、瞬きも忘れて固まった。
 彼は私が驚いているのはわかっているはず。しかし、畳みかけるように言葉を紡いでいく。
「別れを告げた君を追いかけたい気持ちと、君の気持ちを尊重するのが一番だという思いとで悩んだ。結局その迷いのせいで、君はもういなくなってしまった」
 苦渋に滲んだ表情を見れば、彼が本当に思い悩んでいたのだと伝わってくる。
 そうかといって、いまさら私には......。
 瞳を揺らす私に、雄吾さんは必死に弁解した。
「誤解しないで。神奈川(ここ)で再会したのは本当に偶然なんだ。仕事で訪れただけ。そして偶然春奈を見つけた。この期に及んで一瞬、君を追いかけるか迷ったよ。だけど、二年前の後悔を思い出したらすぐ駆け出していた」
 偶然......? 雄吾さんが嘘をつくとは思わない。ただ、私たちは元々の出会いも偶然から始まっている。同じ人とこれだけ同じような〝偶然〟を繰り返すなんて、ありえるの?
 頭がぐらぐらする。これは現実ではなくて夢なのではないか......。目を瞑って現実逃避したくなる。
 頭の中だけでなく、本当に私は倒れかけたらしい。ふらついた身体を彼が支えてくれた。触れられた途端、その箇所が熱くなりまるで脈打つ錯覚に陥る。
 至近距離で彼を見上げると、整った顔が僅かに歪んでいた。私の腕を掴む手にゆっくり力を込められるのがわかる。
「君が他の誰かと幸せに暮らしているなら、もう為す術はない。僕は黙って身を引く――一択なんだけれど」
 言い難そうに呟いたかと思ったら、ふいに怜悧な目で私を捕らえる。
 彼の精悍な顔つきに心臓が大きく脈を打った。
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