双子ママですが、別れたはずの御曹司に深愛で娶られました

「当時は婚約者の機嫌取りに忙しかったからか？」
　彼の声は耳に入っていたが、理解が追いつかない。ただ、ひとつのワードが引っかかり、無意識に繰り返していた。
「婚約者......」
　片手を口に添えて考えていると、彼が嘲笑う。
「結局本当に弟に代わってもらったみたいだが、結果的に弟とその女性とは仲睦まじくやってるみたいじゃないか。今日あなたに会って、記憶をたどって経済誌のバックナンバーを見たら、あなたはもちろん、弟夫妻も載っているのを見たよ」
　経済誌は、彼の肩書きから欠かさずチェックしているのだろう。
　それはいいとして。
「弟に代わってもらったって、なんの話だ？」
　さっきから、まるで意味がわからない。もしかして、この男は自分の不貞をごまかすために、わけがわからないことを言ってごまかしているのか。
　きつくにらみつけるも、彼にはやはり効果はない。彼はペースを崩さず、冷静に話を続ける。
「大企業を代々継ぐ家では、俺たちの常識が通用しないんだなと思いましたよ。政略結婚だからって、縁談が兄弟どちらでもいいだなんて」
　顔を顰めながら思考を巡らせる。
　――『縁談はどうしたんですか？』
　ふいに一昨日の春奈の言葉が脳裏に蘇った。
　あまりに小さな声でほとんど聞き取れなかったけれど......あれはもしや『縁談』と言っていたのか？　なぜそんな言葉を。
　いや。まずは目の前のこの男と話をつけなくては。
　彼からの鋭い指摘に一度ぐらついた態勢を立て直し、しっかりと返す。
「過去のことは責められても仕方がない。だから僕は、春奈が今、君と幸せに暮らしているならあきらめざるを得ないと気持ちに踏ん切りをつけようとしていた。けど、君が不誠実を働いているなら話は別だ」
　そこまで告げ、僕はさらに正々堂々と正面切って宣戦布告をする。
「彼女をあきらめない。もう一度振り向いてもらう。僕のすべてをかけてでも」
　こんな男に春奈も、春奈の子どもも任せられない。
　彼女を傷つけてしまうかもしれないけれど、将来を見据えてちゃんと現実を伝えたほうがいい。僕は隣にいるのを許されなくても、彼女が大変になった際に手を差し伸べられる存在のひとりになれたらいい。
　でも......欲を言えば、いつか僕のほうを振り向いてくれたら――。
　絵空事だと笑われるかもしれないが、今の僕が望む微かな希望だ。